こんにちは、ディオニー西日本営業チーム岩永です!


2025年1月に訪問したフランス・オーヴェルニュ地方の「Pierre Beauger(ピエール・ボー
ジェ)」をご紹介します。


オーヴェルニュ地方について

フランスのほぼ中央に位置するオーヴェルニュ地方。ミネラルウォーターのボルヴィックが有名です。
日本に入ってくる数は少ないものの近年ワインの産地としても人気が高まり、火山帯に囲まれた影響で火山性土壌、石灰岩質の土壌由来による特有の風味、ガメイ、ピノ・ノワール、シャルドネなど様々な品種が栽培されています。


息を飲むような醸造所

ピエール・ボージェの住む地域は石を積み上げて作られた家屋が主となる、都会から離れた静かな街です。何度も訪問したことのあるスタッフも迷う程、同じような家々が並びます。

▲街並み


自宅兼醸造所となっていて、お家の中にカーテンで仕切られた隠し扉(?)があり、RPGのように秘密の扉から小さな醸造所に続いています。

▲隠し扉

まるで『風の谷のナウシカ』の腐海の森のように、ふかふかモコモコのカビに覆われた樽たち。
ここまでにも色々な醸造所を見てきましたが、彼のところは思わず息を飲むような空気を纏っています。冬眠しているコウモリもいて、それらを起こさないようにヒソヒソと小声で見学させてもらいました。

 ▲ふかふかモコモコのカビ
▲冬眠中のコウモリ


「修行中の仙人みたいな人だよ」



 ▲自宅前にて ピエール・ボージェ

訪問前にはそう聞いていました。

ピエール・ボージェといえば、ナチュラルワイン界ではみんな喉から手が出るぐらい欲しがる人気のスター生産者で、ワインもなかなかのいいお値段です。

でも実際に会った彼は、とても質素で慎ましやかに暮らしていました。
穴のあいたセーターを着ていて、聞けば40年前のヴィンテージもの!
今まで出会ったナチュラルワインの生産者たちはみんな派手な暮らしはしていませんでしたが、ストイックさは随一だと思いました。

「自分はお金はいらないけど、生きるため、家族のためにお金は必要…家を広くしたい、醸造所を広くしたい、でも家と醸造所がくっついているところはなかなかないし。結局はいつも同じ悩みを持ちながら、毎年同じ仕事を繰り返してきた。畑にいたり、ワイン造りをしていると、そういう煩わしい考えごとをしなくて良い」と呟いていました。
なるほど、確かに修行中の仙人かもしれません。


世界に1本だけの…


この日は食事の約束はしておらず、後述の病気のこともあり、彼のコンディションがまだわからなかったので、テイスティングもないだろうと思っていましたが「テイスティングするか?」とグラスを渡され…

彼のワインが飲める機会はそうそうありません。
いつもは試飲中に酔わないように吐器に出しますが、この日の訪問はここが最後。
この時ばかりはスタッフみんな一滴残さず飲み干しながら、彼のお話を聞きました。


▲   靴下でブラインド

▲貴重なワインをたくさんテイスティング

彼のテンションが静かにヒートアップしていくうちに、ブラインドも混ぜつついろいろ開けて、ついには世界に1本だけの「Cuvée H」をお土産として詰めてもらえました…!

▲「Cuvée H」のHは実は私の名前の頭文字です♪


未来へのリスタート

実は、彼は2022年9月から2023年7月まで病気により入院していました。
入院直前のことを彼はよく覚えていません。
「午後に奥さんが迎えに来て収穫の風景は見た気がするんだけど…」

自分に合う薬がなかなか見つからず、投薬しては変えてを繰り返し、入院が長引いたようです。体調が悪い時は気力もなくなり、悪いことばかり考えてしまいます。
当然、畑仕事もできませんしほったらかしになってしまいました。

そんな時に、直接的な交流のなかったルーションの生産者ドメーヌ・ゴビーのリヨネル・ゴビーが噂を聞き駆けつけてくれ、オーヴェルニュまで何往復も収穫から醸造まで手伝い、ワインを完成させてくれたそうです。

この年、白は2樽あり、ピノ・グリとソーヴィニヨン・ブランのアッサンブラージュをしたワインは完熟したりんごジュース、野性的なシャルキュトリー、クミンのようなスパイス感、コンソメのようなダシ感が感じられます。
品種は違うのですが、かつてピエール・ボージェを唯一無二の存在に押し上げたシャルドネ「シャンピニオン・マジック」を彷彿とさせる味わいがそこにはありました。
これを飲んだ時に「(仙人じゃなくて)マジシャンだ!」と言ったのですが、「マジックにはタネがあるから好きじゃないけどね…」と得意げに返されました。

「2022年はリヨネルの心でワインを作ったんだよ。来年の畑仕事が終わったとき、秋ぐらいに瓶詰めしようかな。エチケットには“Merci,Lionel!”と書くんだ」

▲シャンピニオン・マジック


病気でままならない時期、すべてのことに興味を持つのに時間がかかり、泣き続けていたこともあったそう。
「まだ体調は完璧ではないけど、2025年はできることをやっていきたい。今はシラーのプレタイユ(予備剪定)まで済ませたよ」と微笑んでいました。
すっかり暗くなり私たちが帰る頃には、パリから次の来客が訪ねてきていました。

ピエール・ボージェのリスタートをみんな楽しみに待っています。

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