こんにちは。ナチュラルワイン教室を担当している遠矢です。
2025年のスペイン生産者訪問記、第2弾をお届けします。
今回は前回に引き続きマドリッドから西へ100kmほど、シエラ・デ・グレドスのラス・ペドレラスをご紹介します。


【シエラ・デ・グレドスという産地】
シエラ・デ・グレドス(Sierra de Gredos)は、イベリア半島中央部の山岳地帯。
カスティーリャ・イ・レオン、マドリッド、カスティーリャ=ラ・マンチャの3州にまたがる全長約150kmの山脈で、最高峰のアルマンソールは標高2,592mです。
マドリッドの平均標高が654mあるため、その周辺のヴィノス・デ・マドリッドというD.O.(原産地呼称)の畑も600〜800mで、シエラ・デ・グレドスになると標高1,200mものブドウ畑があります。
大陸性気候で、夏は乾燥・高温で冬は厳寒。昼夜の寒暖差も大きく、夜間の冷涼さがブドウの酸を保ち、アロマを豊かにします。
そして、シエラ・デ・グレドスの特徴的なテロワールのひとつが花崗岩土壌です。
保水性が低く水はけが良い。根が深く張り、ミネラル感と緊張感のある味わいを生みます。
前回ご紹介した、ボデガ・シンコ・レグアスのマルク・イサールもその一員であった「コマンドG」が2018年『ワイン・アドヴォケイト』誌で、ガルナッチャ単品種として初めて100点を獲得したことで世界の注目を集めた産地でもあります。
【セブレロスからビリャヌエバ・デ・アビラへ】
11月9日朝、シエラ・デ・グレドスのふもとの街セブレロスを出発して小一時間。
標高1000mにあるビジャヌエバ・デ・アビラに到着しました。

街はずれの一角に並ぶ、同じ形のガレージのひとつが、ラス・ペドレラス、バルバラ・レケホの醸造所でした。比較してばかりですが、マルクの醸造所と比べると小さな、ナチュラルワインの生産者を訪問するとある種の見慣れた、若手生産者の手狭な醸造所です。
リベラ・デル・ドゥエロ生まれのバルバラは、醸造学を学んだあと、ボルドーのシャトー・オー・ブリオン、シャンパーニュのピエール・ピーターズ、ソノマ・コーストのピー・ヴィンヤーズ、ニュージーランドのクォーツ・リーフで学び、この地に戻ってきました。
ソト・マンリケ・ワイナリーで醸造家を務めたあと、2020年にラス・ペドレラスとして初ヴィンテージを迎えました。
ラス・ペドレラスの資料はこちら。

きびきびと職場を片付けながら、「とりあえず、畑に行こう。(私の車に)乗って」という感じで、早々に畑に向かいます。
【ビジャヌエバのふたつの畑】
バルバラは、ハキハキとした歯切れのよい英語で不慣れな私の様子を気にしながら話してくれました。
「今日はアニマスの畑から行くよ。すごく美しい場所なんだけど、車1台じゃないとアクセスできない難しい場所だから、なかなか人を連れて行く機会がなくて。」
アクセスが難しい理由はすぐわかりました。
おそらくその畑に行くためだけにある道は、4WDのピックアップトラックがとりあえず通れるくらいの山道で、凹凸にハンドルを取られないようバルバラ自身が少し緊張しながら運転しているように見えました。
そうしながらも、バルバラは解説を続けます。
「2025年は本当に良い年だった。少しずつ規模も大きくできたし、品質も良くて、ワイナリーの作業環境も改善できた。」
「前回からの変化といえば……スレートと花崗岩が混じる土壌の畑を1区画買った。そこから初めてのシングルヴィンヤードワインを造る予定。それ以外はワイナリーの骨格は変えてない。畑の状態を上げることと、他のワイナリーのコンサルも続けながら改善してる。」
「今はもう少し落ち着いて、マーケットともちゃんと向き合う時間を取りたくて。規模を大きくするより、自分が出て直接ワインを説明することに集中したい。そうやってまず知ってもらってから、次の成長ステップを踏みたい。」
こちらから聞かなくても、近況を整理して話してくれます。いろいろな仕入れ先とも話慣れているようで、ワイナリーは若くても経験豊富さを感じさせます。

この手法も失われつつあるため、バルバラたちが学びながら作っている場所もある。
しばらくして現れた森の中の三叉路で車を降り、石垣の間に張られたフェンスを抜けて、ようやくアニマスの畑に到着しました。

感嘆の声は畑の空気に吸い込まれ、そのあとは、なぜか声を張ることを躊躇わせる静けさ。
対照的に開けた高い空には鳥の声が響き、見上げると広大な天井画のようでした。
「この辺りはずっと昔はブドウ畑だったの。でもビジャヌエバの中でもここは一番寒い場所で、収穫は一番遅いし、酸度が一番高くて、pHも一番低い。昔のブドウ農家たちは糖分とアルコールがちゃんと出るブドウが好きだったから、ここは合わなかった。それでほとんど放棄されてしまった。」

「この区画を買い取ったのは2021年。 前のオーナーは慣行農法をしていて、そこからエコ(有機農業)へ移行させるのは本当に大変だった。植物は、化学肥料や農薬に依存した状態になってて、そこから脱却するには1、2年は苦しみが伴う。でも4年経った今、ようやく私たちの仕事の結果がワインに現れ始めた。最高の品質だよ。」

「氷点下にもなるけど、それは普通のことだし、私たちにとっては良いこと。水分になるし、木化(リグニフィケーション)を促す。しっかりと休眠状態に入ることで、次のシーズンに向けてエネルギーを蓄えることができる。11月が暖かいままだと樹がいつまでも活動し続けて、十分に休眠できなくなる。」
この場所の歴史、環境、農業、生き物。
関わるあらゆることに理解と思考を持ち、見定めた先へ実践を重ねていく。まさに、この畑まで続いていた石垣をひとり積んでいく慎重さと、積みあがった時の静かな高揚感を求める熱がバルバラのうしろ姿に見えるようでした。

▲Las Pedreras Vertiente de las Animas
もう一か所見せたい畑があるとのことで、先ほどの三叉路まで戻り、もう一方の道を登ります。
アニマスの畑より斜面の上の方、こちらはより開けた明るい印象です。

「ここには、グレドスの現在と過去と未来がある。斜面の下の区画と同じルーツを持つ若木を植樹してるんだ。グレドスの古木が持つ質を次の世代に繋ぐためにね。
そして、向こうの山の頂がラス・ペドレラス。 どこからでも見える一番高い山。私たちのアイデンティティそのものだよ。」
なんて見事なツアー。
振り返ってみると、バルバラは、自分がなぜここでワインを造っているのかを一番効果的な形で私たちに見せてくれたようです。
細かな手法を聞くよりも、ワインを試飲するよりも、ずっと説得力があり、バルバラのワインを飲むときに分かち難い下地となる形で。
さて、今回もすっかり長くなってしまいました。
後半は、少し離れたナバレビスカ(Navarrevisca)という場所のもっとも標高の高い畑の様子、そしてパートナーのグスマンのレストランについても少しご紹介しようと思います。




