こんにちは、ディオニー西日本営業チーム岩永です。
2025年1月、初めてフランス出張してきました。その内の一人、フランス・シュドウエスト地方のCahors(カオール)にて冷涼感たっぷりの美しいオーセロワを作る生産者、「L’OSTAL(ロスタル)」をお伝えさせていただきます。
生産者のLouis Perot(ルイ・ペロ)は元々パリの出版業界にいました。そこで同じ業界の奥さまと出会い、二人でワインにまつわる本を作ったのがきっかけでワインに興味を持ち、自然により近い生活をしたいと望みワイン造りを志しました。
ボーヌの醸造学校を卒業後、研修先に選んだシュドウエスト地方の醸造家シモン・ビュッセからワイン造りを学び、一年後独立するときに、シモンから門出に畑の一部を譲り受け、ドメーヌをスタートさせました。シュドウエスト出身のルイにとってこの地方で畑を手に入れることは願ってもないチャンス。最高の自然環境と家族に囲まれ、果実味と冷涼感を両立させるエレガントなスタイルのワインを造っています。
オーヴェルニュから車で約4時間。街の喧騒から離れた緑の中に、ロスタルの自宅兼醸造所があります。入口でルイと2匹の元気な黒いラブラドール犬がお出迎えしてくれました。初めてお会いしたルイは真面目そうで渋い顔のおじさまといった印象。

挨拶を終え、まずは新しく建設途中のカーヴを拝見しました。木材をふんだんに使った広いカーヴは、なんと自作。DIYのレベルではないぐらいしっかりしており、天井も高く、開放感があります。近々、住んでいる自宅前のカーヴからこちらに移る予定で進めています。彼のお父さんとお兄さんが建築関係の仕事をしていて自宅を建ててもらったようです(なんて羨ましい!)。このカーヴはそのノウハウを受け継ぎ、ひとりで作っているとか…。


続いて畑を案内してもらいました。カーヴから畑まで続く道のりは落ち葉が重なり、緩やかな坂道でちょっとしたトレッキング気分が味わえます。到着した畑からは広く一面を見渡せ、奥の林までが彼の畑だと説明してくれました。畑の中で飼っている羊たちが遠くに見え、時折犬が追い立てていました。ふかふかで草も程よく茂り、よく見ると所々に何かしら獣の糞も。天気は生憎の曇りから雨になってしまいましたが、とても空気がおいしく気持ちの良い場所!

カオールは、大西洋と地中海からの距離がほぼ同じなので海洋性・大陸性・地中海性気候が入り混じる特殊な産地です。ボルドーよりも乾燥していて雨量は200㎜ほど少なめ。2024年は他の生産者が話していたほど、遅霜とミルデュー(ベト病)の被害は大きくなかったのですが、獣害で収量30%減。「Amselme(アンセルム)」のキュヴェに使っていた高樹齢のブドウはすべて食べられてしまったそうです。畑の周りにはぐるりと電気柵が張られていました。

カオールは赤ワインのみのアぺラシオンとなり、主要品種はマルベック(現地ではオーセロワやコーと呼ばれる)。補助品種としてタナとメルローが認められていますが、大半はマルベックです(余談ですが、カオールはシュドウエスト地方で唯一カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランを認めていません)。
ロスタルも今年から晴れてAOC(原産地呼称)を取得できたのでAOCカオールを名乗れます。毎年ここぞという1キュヴェだけ、カオールを付けるそうです。
赤の方がメジャーですが、彼は白ブドウも栽培しています。南らしくモーザックなどもありますが、2017年からはシュナン・ブランを植えました。意外にシュドウエストにも伝統的にシュナン・ブランは植えられているらしく、その他にも白ブドウは2017年にジョーヌ・ブルーとジョーヌ・ブラン、2021年にミュスカを植えました。現在は赤白合計5haの畑を所有しています。残念ながらメルローは手放したようです。僅かですが、一部の畑にピノ・ノワールも植えているとのこと。
「カオールには、栽培面積が4000haあったにも関わらず750ha分のブドウの木を抜かれた。なんとも残念な状況だ」と嘆いていました。

テイスティングに入ります。彼のワインはどれも冷涼感を感じ、ピュアさがあります。その秘訣を聞いてみたら、畑は北向き斜面で早くに実を摘んでいると答えてくれました。「料理に使う果物や野菜でも完熟は使いにくい。ブドウとして食べるには青いけど、ワインにしたらおいしいタイミングを狙って収穫している。」また、彼のワインは基本、除梗をしない全房スタイルですが、茎の中に水分が含まれているからアルコール度数が下がりやすいと話してくれました。
近年人気のハイブリッド品種についても聞いてみたところ、昔から遅霜、ミルデュー対策でこのエリアにも植えられており、彼も0.4haと僅かだが畑を持っているようです。そのワインも飲ませてもらいました。フォクシーフレーバー(グレープジュースを思わせる甘い特徴的な香り)は感じられますが、ハイブリッド特有のキャッチーさはなく、細やかな酸とジューシーな果実味、凝縮感があり、おいしい!(日本未発売です)


昼食はマグナムボトルに詰めたミュスカから乾杯スタート。これがとっても飲みやすい!2022年から造り始め、2023年からは商品化。価格もリーズナブル。日本でも是非販売してほしい…。

メニューは鴨やフォワグラペーストのカナッペ、プルーン、デーツと焼き豚に茹でたプードル(古代麦)を添えた一品、チーズプレート。さすがシュドウエスト!名産品のフォワグラとのペアリングは秀逸。焼き豚にも黒系の果実味がマッチしてとてもよく合いました。中華料理にもよく合いそう。

魅力的なワインがありながらもどこかマイナーなイメージが拭えないカオールですが、今回は身近に感じられ、とても良い体験でした。
一番印象に残ったのは「ある国のインポーターはすぐにワインを買い取ってくれるけど、飲み頃を待たずにキャッシュフローとしてすぐに売ってしまう。自分の仕事をリスペクトしてほしい」という一言でした。当社のテイスティング会議でもいつもリリースについて議論になりますが、彼のワインは本領発揮するまで少し時間がかかるタイプのものが多いのです。でも、それを抜けた先には百合の花や、プルーン、黒ニンニク、ミネラル。こんなオーセロワがあるの?というピュアで冷涼感にあふれた味わいに満ちています。今後のキュヴェも楽しみですが、今、ディオニーにあるワインもどんどん落ち着いておいしくなっています。唇は真っ黒になりますが(笑)スゥッと沁みわたる心地よさ。美しく心地よいロスタルのワイン、まだの方は是非飲んでみてください。