スペインのヴィノス・デ・マドリッドのワイナリー「Bodegas Cinco Leguas(ボデガ・シンコ・レグアス)」の後編をお届けします。
当主のマルク・イサールについてはこちら
【奇跡のレストランへ】
Chinchón(チンチョン)の醸造所を出て、もうひとつのワイナリーへ向かいます。

その途中で訪れたのが、こちらのレストラン。
マルク・イサールが「まさにカスティージャの奇跡だよ」と評した場所です。

到着した時には、私が英語をうまく聞き取れていなくて、どこか別のレストランの話をしていたのかなと思っていました。次もあるし、さすがに軽い昼食か、と。
ところが、足を踏み入れるとまったく想像していなかった世界が広がっていました。


騒々しい店内はところ狭しと人で溢れていて、年季の入った大きな窯、雑然としたワインセラーには名だたる銘柄が積み上げられていました。
人垣を縫うように進んだ先には、広いテーブル席フロアがあり、私たちはそちらへ。
他にもドライブイン的に軽食を楽しむフロアもあり、どこも人でいっぱい。
なにより、青いシャツにグリーンのエプロンを身に着けた老若男女のスタッフが、勢いよく動き回る姿が店の活気を加速させているようでした。
この後訪問するワイナリーでマルクと一緒にワインを作っているミゲルさんとの挨拶もそこそこに、次から次にワインと料理が運ばれてきて、あっという間に私たちも店の風景に飲み込まれてしまいました。

地元の料理と窯で焼いた肉料理が人気のお店のようで、新しいお皿が出るごとに供されるワインも当然現地のものを中心に。




シェリーやスパークリング、白に赤にと、どんどん出てくるので、どんなものかほとんどわからないままでしたが、力強い料理にもしなやかで飲み心地の良いワインが多く、とにかく箸が進む食卓という感じでした。
マルクとミゲルの馴染みのサービスのおじさんが、愛想良すぎず、チャチャッとワインと料理の解説をして、ペースを乱さず他のテーブルを回る姿が、とてもかっこよかったです。
気づけば2時間強が過ぎ去っていて、このあとさらにワイナリー訪問があることが信じられないまま出発。

1時間ほどかけて到着したのは、グレゾス山脈のふもとの村Cadalso de los Vidrios(カダルソ・デ・ロス・ビドリオス)。
何とか日が暮れる前にミゲルの畑に到着できました。

歩いていると、前編の粘りが強い粘土の時とは違い、ジャリジャリとした足音に変わっていることに気が付きました。
「この花崗岩の砂地が、ガルナッチャに『垂直的な酸』と『塩気』を与える。粘土質のような重さはなく、液体が舌の上を軽やかに、直線的に通り抜けていく。このミネラル感は、他の産地のガルナッチャには絶対に出せない個性なんだ」


標高は800m超。
夜間の冷え込みがブドウの熟度をゆっくりと高め、フレッシュな酸を閉じ込めます。
「畑の周りにはラベンダーやローズマリー、松の木が自生している。風が吹けばその香りがブドウを包む。グレドスのワインに、森の果実だけでなく『乾燥したハーブ』のニュアンスを感じるのは、この環境がそのまま液体に溶け込んでいるからだ」
この時には、すでにあたりは真っ暗。
そそくさと村にある醸造所へ移動します。
この村には、マルクの名を一躍世界に知らしめたワイナリー“Comando G(コマンドG)”があり、現在はその目と鼻の先にあるミゲルの醸造所で、ワイン造りをしているのです。

ここでは「Marino(マリーノ)」という比較的熟成期間の短いシリーズと、区画ごとに時間をかけて熟成させる上級のスタイルを造り分けています。
「マリーノは、グレドスの花崗岩のキャラクターを重くなく表現するためのワイン。だから抽出は最小限。よりダイレクトな果実味と、柔らかな口当たりを優先したいから除梗して、醸し期間も長すぎず、果実の瑞々しさが生きているうちに搾る。
花崗岩の塩気と、ガルナッチャの赤い果実の軽やかさ。それを守るために、あえて『造りすぎない』ことが大切なんだ」

▲マリーノ・ティント ※白・ロゼもあります
日本ではまだ紹介できていないワインたちも試飲させていただきました。こちらは樹齢80年以上のガルナッチャ単一区画ごとの小仕込みで、数樽から1樽のみのものもあります。
その中には、懐かしい「ペーニャ・カヴァジェッラ」というキュヴェも。
(注:かつてコマンドGでマルクとともにワイン造りをしていたフェルナンド・ガルシアのワイナリー「ボデガ・マラニョネス」に同じキュヴェがあり、以前ディオニーでも扱いがあったのです)
「9月の第1週に収穫を始めた。でも、実際にプレスしたのは10月27日。
約2ヶ月間、除梗せず果皮と一緒に置いておく。ピジャージュ(櫂入れ)もしないし、ルモンタージュ(液循環)もしない。ただ置いておくだけだ。そうすることで、花崗岩由来のミネラルと、古木の細やかなタンニンが、液体の中に完全に溶け込み、調和する。
急いでプレスしてはいけない。時間をかけることで、グレドスの持つフィネス(気品)が初めて姿を現すんだ」

最後のワインはランシオやブランデーのように凝縮されつつも、今なお瑞々しさを感じられる、深く豊かな森と時が溶け合ったような液体でした。
朝10時にチンチョンの醸造所を訪れてから11時間。
たった一日の訪問で、これほど濃厚な時間を持てることもそうそうありません。
別れ際には明日もまた会うような不思議な感覚になっていました。
マルクは、
「わざわざ来てくれてありがとう。なにか感じてくれたならうれしいよ。また会おう」
とはにかみながら言葉少なに見送ってくれましたが、十分に語り合った満足感と疲労感がお互いに滲んでいたようでした。
とても真摯な仕事ぶりと、お互いに不慣れな英語でも、丁寧になんとか伝えようとする意図が話しぶりから感じられ、いいワインが生まれてくることが実感できた訪問になりました。

以上が、Bodegas Cinco Leguas(ボデガ・シンコ・レグアス)のマルク・イサール&ミゲルとの一日でした。
ディオニーには、マドリッド近郊、グレドス山脈周辺の生産者がマルクを含め3人います。
それぞれの環境も人も魅力的なところばかりでしたので、いずれみなさんにご紹介したいと思っています。
ナチュラルワイン教室をはじめ、様々なセミナーやイベントでは、生産者をより感じることのできるプログラムを企画していく予定です。
そちらもぜひご参加お待ちしております。



