こんにちは。ナチュラルワイン教室を担当している遠矢です。
コロナ禍に営業職を離れて5年近くになりますが、昨年10月にようやく海外の生産者訪問に行くことができました。
2026年1月に始まったナチュラルワイン教室in岡山&名古屋でも、その時の映像をふんだんに使用しています。現地の空気を感じながら学んでいただけるのが、ナチュラルワイン教室のいいところですので、4月から始まる東京・大阪・京都での教室もぜひご参加お待ちしております!
さて、今回私が訪問したのはスペインです。
その中でも首都マドリッド南東部の歴史ある小さな街Chinchón(チンチョン)に醸造所を持つ「Bodegas Cinco Leguas(ボデガ・シンコ・レグアス)」をご紹介します。
当主のマルク・イサールについてはこちら の資料にも紹介されていますが、
2018年にスペインのガルナッチャ単一品種のワインとして、初めて『ワイン・アドヴォケイト』誌で100点満点を獲得したワイナリー「コマンドG」の一員で、現在はマドリッド南東部のアルガンダの農村復興プロジェクトを興し、地元のマルヴァール(白ブドウ)、テンプラニーリョの復活に尽力しています。

【マドリッドからチンチョンへ】
11月7日の夕方にマドリッド空港に到着。
マドリッドは標高650mの高地。それまでいたカタルーニャよりも5℃以上低い気温であるのに加えて、前日から雨が続いていて、ひときわ寒くなりそうな雰囲気でした。


ここまでは出番のなかった冬用のアウターが遂に、と思っていたのですが、翌日は一転。
すがすがしく高い空が広がっていました。

【Labradores(ラブラドール)】
朝10:00、街の一角にある醸造所で出迎えてくれたマルクとさっそく畑へ。
車で15分ほどの畑は、標高7~800mに位置しています。
ご覧の通り赤色が強い、酸化鉄がとても多い粘土土壌。雨をたっぷり吸って、すごい粘りになっていました。
「私たちは自分たちを単なる農家ではなく、Labradores(ラブラドール/土を耕す者)と呼ぶ。この粘土質の強い土壌では、雨水を深部へ届けるために、土を深く掘り起こし表面を壊してやる必要がある。そうしないと水は入っていかないし、逆に蒸発も防げないんだ。」
この場所の粘土は乾いてしまうとまったく水を通さないほど固くなってしまうのです。
さらに、
「カバークロップ(被覆植物)を残しすぎると、この乾燥した土地ではブドウのパワーが落ち、アルコール度数が上がり、酸が消えてしまう。良い果実を得るためには、土を適切に動かすことが、この地域では何よりも重要な仕事なんだ。」
貴重な水分をブドウに届けるため、そして土の中に閉じ込めるために耕すという方法が、この場所での自然な畑仕事なのです。
土を触らない、草を残すという方が一見自然なように思えますが、どこにでも適した万能な方法などはなく、私自身もわかりやすさに流されていたことを実感したひと幕でした。
【ワインの中の目に見えないもの】
足を上げるのが億劫なほどに靴底にこびりついた粘土を念入りに落として(赤い色は帰国して洗うまで取れませんでした)、醸造所に戻ります。


▲広く清潔な醸造所、導線も余裕があってとても仕事がしやすそう
2019年に移ってきたというこの醸造所は、大小様々な樽やティナハ(素焼きの甕)、セメントタンクなどたくさんのワインが静かに瓶詰までの時を過ごしています。
最終的にはひとつの銘柄として瓶詰めされるワインも、この段階では複数の樽に分かれていてそれぞれの味わいは異なります。
「白ワイン(特にマルヴァール)は、時間を経るごとに赤みを帯びた深い色合いに変化していく。私は、リリースまでに1年、2年、理想を言えば3年は待ちたい。2024年ヴィンテージも、市場が求めても私は『もう1年待とう』と言い続けているんだ。」
「この地域のティント・フィノ(黒ブドウ)は砂の多い区画にある。だから、リベラ・デル・ドゥエロのような重厚なスタイルにはならない。私が求めているのは、砂由来の軽やかさ。スイスイと飲めるスタイルだ。あまりにおいしくて飲むのが止まらない、それが『呪い(Maldición)』という意味なんだよ。」

▲Bodegas Cinco Leguas La Maldición Tinto Fino
マルクのワインは決して高級な価格帯ではありません。それでもマルクの求めているスタイルにはとても細やかで静かなワイン造りが必要で、そのために当たり前のように妥協しない姿勢が感じられました。
それから非常に興味深かったのはワインの熟成についての話です。
「みんな酸やアルコールが高いワインが長持ちすると言うが、私は違うと思う。熟成を支えるのは、水でもアルコールでもない、土壌から吸い上げたミネラルやグリセリンといった“Dry Material(エキス分)”なんだ。そこに目に見えないほどの小さな要素が複雑に絡み合っている“調和”こそが、時を経ても崩れない真の強さをワインに与えるんだ。」
マルクの畑仕事はこのエキス分を引き出すためにあり、醸造所での時間はワインに含まれるごく小さな要素たちとの調和のためにあるということなのです。
ここでもまた、わかりやすい数値や指標でワインを判断することの危うさにチェックを入れられているようでもあり、それ以上に、目に見えないもの、はかることのできないものがワインには表れるんだ。素晴らしいじゃないか。と言われているような気がしました。
【もうひとつのワイナリーへ】
実はこの日、ほかのワイナリーとのアポイントはありませんでした。
というのも、マルクは別のところでもワイン造りを行っており、移動に2時間近くかかるため、午後はそちらに行くことになっていたのです。

当然その間に一緒にランチをという話になるのですが…。
次回は、マルクが「マドリッドとグレゾスの間、何もない平原のガソリンスタンドにレストランがある。そこはスペイン最高のワインリストを持っていて、ペトリュスだって置いてある。まさにカスティージャの奇跡だよ。」と言って連れて行ってくれたこの旅イチ印象深いレストランのお話から、もうひとつのプロジェクトについてご紹介したいと思います。




