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かつては陸の孤島と呼ばれたバジリカータ…休火山ヴゥルトゥーレの麓のワイナリー『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』両親と息子2人の家族で営む、小規模ワイナリーを代表して来日した弟 パオロ。標高400m以上の冷涼な場所に位置する畑は、火山灰土壌で味わいに独自の要素をもたらします。ブドウ品種は、南イタリアの代表的黒ブドウで「ギリシャ伝来のブドウ」を意味する、アリアニコ種。祖父の時代から続く無農薬栽培のブドウで醸すワインは、ヴゥルトゥーレの土地の個性を現す味わいで、黒系フルーツの甘やかな果実味にスムーズなタンニン、心地のよいミネラルと酸味が上品な仕上がりです。彼らの世界は、カンパーニャのアリアニコと双璧をなす、完成度の高さです。

のプロフィール
かつては陸の孤島と呼ばれたバジリカータ…休火山ヴゥルトゥーレの麓のワイナリー『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』両親と息子2人の家族で営む、小規模ワイナリーを代表して来日した弟 パオロ。標高400m以上の冷涼な場所に位置する畑は、火山灰土壌で味わいに独自の要素をもたらします。ブドウ品種は、南イタリアの代表的黒ブドウで「ギリシャ伝来のブドウ」を意味する、アリアニコ種。祖父の時代から続く無農薬栽培のブドウで醸すワインは、ヴゥルトゥーレの土地の個性を現す味わいで、黒系フルーツの甘やかな果実味にスムーズなタンニン、心地のよいミネラルと酸味が上品な仕上がりです。彼らの世界は、カンパーニャのアリアニコと双璧をなす、完成度の高さです。
インタビュアープロフィール
ワインショップ『pcoeur(ピクール)』店主。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、プロモーター、エディターとして活動。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

アリアニコは時間を要する品種

アリアニコは時間を要する品種

― 南イタリアのなかでも収穫の時期は、とても遅いそうですね?

P:そうです。私たちは、10月初旬から約1ヶ月ほどかけて、収穫します。南イタリアのほかの産地では、8月頃から収穫が始まっている。なのに、私たちはなぜ収穫が遅いのか? それは、晩熟タイプの品種、冷涼な気候、その2つの要素が重なることで、大きな差が生じるということです。区画ごとに収穫のタイミングを変えているため、期間も長いです。アリアニコは、ゆっくりと熟しながらポリフェノールとタンニンをたっぷりと含有することができるのですが、収穫時期が遅くなればなるほど、リスクは高くなるというのはどの産地でも同じです。秋には雨も降ります、ですからブドウにデメリットを与えてしまうのではないかと、気が気ではありません。それでも、我慢をしてしっかり完熟を待つことが重要で、その我慢あってこそ美味しさをお届けすることができるのです。

― いつくかのキュヴェがありますが、どのような違いがありますか?

P:ブドウ畑は8haありますが、区画によって土壌も樹齢も違います。ですから、単一品種というのはもちろんですが、単一の土壌、樹齢で、それぞれのキュヴェを造ります。土壌の個性を見極めて、ワインを造る。表現するのが重要だというのが私たちの考えです。具体的には『メッセール オト』は、一番樹齢が若く平均15年のブドウです。土壌は、ベースが粘土石灰ですが、表面は火山灰で小石が混ざった区画です。火山灰や岩石などが何層にも重なる地層で、ミルフィーユ状に様々な地質が重なり合っていることが重要で、深く伸びたブドウの根が様々な栄養素やミネラルを吸収し、味わいが複雑になります。

― テロワールや樹齢の違いをキュベに反映しているんですね。では、醸造にも違いはありますか?

P:土壌を見極めワインを表現しようとすると、収穫の時期が違ってきます。そうすると醸造方法は大幅に変わらなくても、熟成プロセスが変わります。結果、味わいも大きく異なることになるんです。飲んでいただくと、その違いに驚くと思いますよ。(笑)自然に敬意を払い自然な栽培を…というお話をしましたが、醸造も同じで、テロワールの個性やブドウのピュアな味わいを表現したいんです。
 
『メッセール オト』は、フレッシュさを表現したいキュヴェで、重いタンニンよりフレッシュな果実味。ですから、収穫も一番早い時期となり、平均的には10月の中旬くらいになります。醸造はステンレスタンクで発酵、スキンコンタクト(赤ワイン造りの第一工程で、ブドウの果皮から色素とタンニンを抽出すること)の期間を15日から長くても20日くらいにして、抽出を控えめにします。

― では、ほかのワイン『バウチョ』については、いかがですか?

P:『バウチョ』は、良い年にしか造らないキュヴェなんです。粘土質土壌の樹齢50年から60年のブドウです。タンニンがしっかりと完熟するまで収穫のタイミングを待つと、収穫時期は10月末頃になります。このワインは、スキンコンタクトの期間も長く30日間ほど醸します。なぜなら、収穫時期が遅いこともあって、ブドウの完熟度合いがしっかり進んでいます。しっかりした果実味や厚み、タンニンがあり、醸造でもゆっくり時間をかける必要があるんです。ですから、スキンコンタクトだけでなく、瓶詰めやリリースまで、すべての工程でじっくりと時間をかけて造り上げる必要があります。さらに、瓶詰め後、5年育成させてからリリースします。『バウチョ』は、キメの細かいタンニンが特徴ですが、これは土壌の個性でもあり、ゆっくりと時間をかけて落ちつかせた熟成の結晶ともいえます。
 
補足ですが、2010年からDOCのなかでもさらに厳しい規定をクリアしたスペリオーレクラスのワインには、バジリカータ唯一のDOCGを名乗ることができようになりました。私たちの造るトップのキュヴェは、DOCGとしてリリースします。

―  エチケットのデザインも素敵ですね。このモチーフは何ですか?

P:兄のデザインなんですよ。私たちのワイナリーは、ローマ時代の遺跡も残る街 ヴェノーザにあります。『メッセール オト』は、街の広場にある泉の名前です。ライオンの噴水レリーフのある「メッセール オト」の広場からは、このワインの畑を見渡すことができます。『バウチョ』は、15世紀に築かれた街のシンボルである城がモチーフです。この城を私たちは親しみを込めて「バウチョ」という相性で呼んでいて、そのエレガントで美しい様式が『バウチョ』に重なります。ワインは文化といわれますが、飲むことでその産地のテロワールやブドウ品種、気候を感じることができる。さらにエチケットで私たちの街を表現したい、そう思ったんです。

―  では最後になりますが、日本の皆さんにどのようにワインを楽しんでもらいたいですか?

P:来日してアリアニコの果実味は、醤油を使った甘味のある和食に合うと発見しました。なので、このワインでフードペアリングを楽しむのも良いのですが、僕自身はワインと向き合う瞬間が楽しいと思っています。ワインを飲むことは歓びであり、その歓びを仲間や家族と共有する時間こそ、一番の幸せです。
 
イタリアを代表する赤ワインといえばバローロやブルネッロが有名ですが、南イタリアを代表する偉大な品種かつバジリカータの誇るアリアニコを皆さんに知っていただきたい。そのために私たちは、これからもワインで丹精にテロワールを表現するよう努めます。アリアニコは、栽培、醸造において時間を要する品種ですが、じっくりと丁寧に造ったワインは、時間の経過とともに味わいは滑らかに、香りはさらに複雑に華やかに移り変わります。ワインの声を聴き、その変化を楽しみながら、ゆっくりとお楽しみください。Cin cin!

― 本日はありがとうございました。
 
「南のバローロ」と称されるアリアニコ。有名な産地といえば、タウラージかもしれません。けれど『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』のワインを口に含むと、バジリカータの風景、ヴルトゥーレ山の冷涼感のある空気、そして南イタリアの太陽に輝いていたアリアニコの魂がグラスで生きているように感じ、造り手パオロたちの息遣いまでも聞こえる気がします。
 
パオロは、自分は、ピュアなワインを飲みたい。だからピュアなワインを造るんだと語りました。彼のワインは少し荒削りながら、柔らかく時間が解けていくようで私たちの心を惹き付けます。その魅力に気付かない人がいたら本当にもったいない。そんなバジリカータを感じるワインとの出会いでした。