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かつては陸の孤島と呼ばれたバジリカータ…休火山ヴゥルトゥーレの麓のワイナリー『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』両親と息子2人の家族で営む、小規模ワイナリーを代表して来日した弟 パオロ。標高400m以上の冷涼な場所に位置する畑は、火山灰土壌で味わいに独自の要素をもたらします。ブドウ品種は、南イタリアの代表的黒ブドウで「ギリシャ伝来のブドウ」を意味する、アリアニコ種。祖父の時代から続く無農薬栽培のブドウで醸すワインは、ヴゥルトゥーレの土地の個性を現す味わいで、黒系フルーツの甘やかな果実味にスムーズなタンニン、心地のよいミネラルと酸味が上品な仕上がりです。彼らの世界は、カンパーニャのアリアニコと双璧をなす、完成度の高さです。

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かつては陸の孤島と呼ばれたバジリカータ…休火山ヴゥルトゥーレの麓のワイナリー『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』両親と息子2人の家族で営む、小規模ワイナリーを代表して来日した弟 パオロ。標高400m以上の冷涼な場所に位置する畑は、火山灰土壌で味わいに独自の要素をもたらします。ブドウ品種は、南イタリアの代表的黒ブドウで「ギリシャ伝来のブドウ」を意味する、アリアニコ種。祖父の時代から続く無農薬栽培のブドウで醸すワインは、ヴゥルトゥーレの土地の個性を現す味わいで、黒系フルーツの甘やかな果実味にスムーズなタンニン、心地のよいミネラルと酸味が上品な仕上がりです。彼らの世界は、カンパーニャのアリアニコと双璧をなす、完成度の高さです。
インタビュアープロフィール
ワインショップ『pcoeur(ピクール)』店主。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、プロモーター、エディターとして活動。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

火山土壌と冷涼な気候が奏でる

火山土壌と冷涼な気候が奏でる

イタリア半島を長靴にたとえると土踏まずの部分に位置するバジリカータ。世界遺産に登録された「マテーラの洞窟住居群」は、その退廃美と朽ちていくような雰囲気に包まれた、人気の観光地です。このバジリカータのワインの歴史は古く、ギリシャの植民地だった時代にはワインの産地として栄え、王侯貴族の食卓をも飾ったといわれます。今でこそ、アリアニコ種はカンパーニャ「タウラージ」を代表する品種として有名ですが、もともとはこのバジリカータに持ち込まれたブドウ品種です。歴史ある品種アリアニコの2大生産地の1つ、バジリカータから『カンティーネ マドンナ デッレ グラッツィエ』パオロ ラトラッカが来日しました。急成長を遂げるヴルトゥーレのアリアニコの魅力、そして彼らのワイン造りに迫るインタビューです。

― まず最初にワイナリーの紹介をお願いします。

パオロ(以下 P):イタリア南部にあるバジリカータ。バジリカータといえば、世界遺産にも登録された「マテーラの洞窟住居群」が有名です。カラブリアとプーリアに挟まれた州の北西部、ヴルトゥーレ山の麓に私たちのワイナリーがあります。ヴルトゥーレ山は休火山で、その斜面に広がる産地が、バジリカータで最初のDOC「アリアニコ デル ヴルトゥーレ」です。私たちは、小規模の家族経営ワイナリーで、両親と兄、そして私の4名がワイン造りに携わります。ブドウは、南イタリアを代表する黒ブドウ品種、アリアニコを栽培しています。

― ワイン産地ヴルトゥーレの特徴をもう少し教えてください。

P:南イタリアというと温暖な地域というイメージがありますよね? ですが、私たちの産地は標高が高く、とても冷涼な気候です。具体的に説明すると、ヴルトゥーレ山は標高1250メートル、私たちのワイナリーの畑も標高400から500mにあります。山の麓に広がるブドウ畑には1~3月頃まで雪も降ります。真夏の日中は、35度くらいまで気温が上がりますが、夜になると山から吹く風の影響で15度くらいまで下がり、この寒暖差がブドウにフレッシュさや酸味を蓄えてくれます。風が吹き抜けることで湿気を飛ばし、害虫がつきにくくなります。これは、オーガニック農法には重要な要素で、ブドウにとって理想的な環境といえますね。

― それでは、土壌にはどのような特徴がありますか?

P:アリアニコ種は、火山質の土壌と相性が非常によい品種なんです。ですが、カンパーニャとヴルトゥーレの土壌はタイプが異なります。私たちの産地には独自のミクロクリマが広がっていて、ボルガニック ソイルズと呼ばれる火山性の密度の高い土壌です。火山の降り積もった灰は、この土壌由来の豊富なミネラルを含み、マグネシウムやカルシウムをブドウに与えてくれるんです。
 
この産地の特徴を簡単にまとめると、標高が高く寒暖差のある冷涼な気候、休火山の火山性土壌、そして南部イタリアを代表する黒ブドウ品種 アリアニコ…この3つがワインを特別なものにしているということです。

― アリアニコといえば、カンパーニャのタウラージが有名ですね。バジリカータの特徴は?

P:同じアリアニコを用いながらも、カンパーニャとは、土壌、気候の違いがアロマや風味に現れます。ですが、やはり造り手の意図するものや信念が大きく異なる気がします。個人的な見解になりますが、バジリカータの造り手たちは、冷涼な気候や土壌の恩恵を大切に、ワインに反映したいと思っています。
 
タウラージよりももっと繊細に、スムーズなアリアニコを目指しているような印象です。対して、カンパーニャのワインは、さらに長期熟成型の造りが多いです。タウラージは、南イタリアで初のDOCG認定を受けた産地、そして偉大な赤ワインということで、アリアニコの濃厚で重厚なイメージそのままのワインを意図して造り込んでいます。バジリカータよりも規模感の大きいワイナリーが多数あるため、大規模なプロモーションもでき、世界に広くリーチしやすい。ですから、アリアニコの産地として世界的に有名なのは致し方ないことです。バジリカータは、私たちも含めて、小規模生産のワインが多いです。ですから、どうしてもタウラージよりも知名度が低くなってしまいます、残念ながら。もっとバジリカータを知っていただこうと、僕が宣伝大使のように来日しました(笑)

― 2大産地の違い面白いですね。お爺さんの代からビオ農法とのことですが、きっかけはありましたか?

P:そうですね、きっかけというよりも、私たちはテロワールに対して誇りを持っていますし、自然に対して敬意を払う唯一の農法がビオということで、自然な流れだったんです。化学的な物質は、土壌に対して悪影響を及ぼし、生態系のバランスを崩してしまう。そのことを危惧するのであれば、農薬を使用せず、肥料を与えず、有機で造れるのならば、その方法がベスト。と、採用したのがお爺さんの代だったというだけです。そもそも土壌、ブドウの樹、自然に対して、最大限に敬意を払うというのが、畑での真摯なアプローチの仕方だと思うんです。
 
近年、ヴルトゥーレは急成長を遂げていて、ビオや有機といわれる農法を取り入れる造り手が増えています。新しい世代の人たちは、積極的にオーガニック農法を勉強していて、現在は50%ほどの人たちが実践しています。それは、新しいことへの取り組みの側面ですが、僕自身、ワイン造りという観点では、家族の伝統や産地の文化を引き継いでいくことも大切だと考えています。

― 栽培については、ロワールの新井 順子さんの畑にも勉強に行かれたそうですね?

P:そうなんです。何よりも日本人がロワールでワインを造っているということに驚きました。ロワールとヴルトゥーレという環境や気候の違いがあるため当然なのですが、畑でのアプローチの仕方も大きく違っていました。そして、順子さんのストイックさに感銘を受けました。畑で酢の散布を手伝いましたが、順子さんはブドウ畑にいるときもエネルギーに溢れていて、活発です。大きなエネルギーがふつふつと滾っているようで火山のような人だなぁと思いました。もちろん、良い意味でですよ。