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フランスの北東、スイスとドイツの国境沿いに位置するアルザス地方。アルザス ワインの首都コルマールから北西へ7kmほど、ツェレンベルグ村に本拠地を構える、マルク テンペ。ビオディナミ農法によるワインは、圧倒的な果実味の凝縮感と繊細な酸、ミネラル感のあるピュアな味わいで、この地の多種多様なテロワールと品種の個性を鮮やかに描き出します。その一本芯が通った強さは、I.N.A.O.(フランス原産地呼称国立研究所)での豊富な経験、そして、幾度もの侵攻や動乱のなかで、独自の文化性を確立してきたアルザス人としての誇りの現れのように感じられます。「良いワインは、いかに良いブドウを作るか」と話す、ビオディナミストのマルク。土地風土に敬意を現し、花崗岩、粘土石灰、砂岩の複雑な土壌は、絵の具。リースリングをはじめ、ピノグリ、ピノブラン、ゲヴュルツトラミネール、シルヴァネールと個性豊かなブドウ品種は、キャンバス。それらを描く画家は、造り手である自分と語る。

マルク テンペのプロフィール
フランスの北東、スイスとドイツの国境沿いに位置するアルザス地方。アルザス ワインの首都コルマールから北西へ7kmほど、ツェレンベルグ村に本拠地を構える、マルク テンペ。ビオディナミ農法によるワインは、圧倒的な果実味の凝縮感と繊細な酸、ミネラル感のあるピュアな味わいで、この地の多種多様なテロワールと品種の個性を鮮やかに描き出します。その一本芯が通った強さは、I.N.A.O.(フランス原産地呼称国立研究所)での豊富な経験、そして、幾度もの侵攻や動乱のなかで、独自の文化性を確立してきたアルザス人としての誇りの現れのように感じられます。「良いワインは、いかに良いブドウを作るか」と話す、ビオディナミストのマルク。土地風土に敬意を現し、花崗岩、粘土石灰、砂岩の複雑な土壌は、絵の具。リースリングをはじめ、ピノグリ、ピノブラン、ゲヴュルツトラミネール、シルヴァネールと個性豊かなブドウ品種は、キャンバス。それらを描く画家は、造り手である自分と語る。
インタビュアープロフィール
ワインショップ『pcoeur(ピクール)』店主。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、プロモーター、エディターとして活動。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

歴史を刻むもの、次世代に繋げること

歴史を刻むもの、次世代に繋げること

マルク テンペとディオニーとの付き合いは、ついに15年目に突入します。その間、私は、アルザスで、日本で、何度も取材をさせていただきました。最初の頃は、ブドウ畑で、ワイン蔵で、何か特徴的なものはないかとしっかと観察し、さらにマルクの言葉から変化を感じ取ろうと、必死でした。ですから、掘り下げの質問攻めでマルクを困らせてばかり。ですが、あるとき、気付きます。マルクは、笑顔で話してくれるときの方が、いろんな引き出しから話をしてくれると。それは、ブドウ畑を案内するときの車のなかでの会話、もしくは畑を見下ろすマンブールの丘でつぶやくひと言、そんな言葉にこそ本音が見えました。そうやって築き深めた友好関係。15年という歳月を経て、今、マルクが本音を語るインタビューです。

― 60歳は人生の節目、日本では還暦というのですが、62歳になられて、どのような心境ですか?

マルク(以下 M):この年齢になり、原点回帰を考えてますね。ワイン造りの仕事に就き、経験から培ってきたもの、築いてきたものがあります。私自身、基本に立ち返り、このエスプリを、次世代へ伝道していきたいという気持ちが強くなりました。「事業承継」を真剣に考える年齢ということですよね。私のドメーヌの歴史を繋げていくことは、本当に素晴らしいことだと思います。それにともなって、2019年には、ドメーヌの社長を妻アンヌ マリーに交代する予定です。だからといって、すぐに一線を退くということではありませんよ…(笑)

― 年齢を重ねても、エネルギッシュですね。では、ワイン造りでの新たな挑戦は?

M:そうですね、まずは質の追求。上級キュヴェだけでなく、全体的なクオリティの底上げを図りたいですね。アルザスでは伝統的にフードル(大樽)を用いて、発酵やシュール リー熟成(澱の上に寝かしておく)を行います。もちろん、アルザスの白ブドウ品種の熟成、繊細な風味を出すのにフードルは適しています。ですが、これまでも上級キュヴェに関しては、ブルゴーニュの木樽を好んで取り入れてきたんです。で、ゆっくりと澱の上でワインを寝かせて熟成させる、そのときにワインに呼吸をさせることが重要なんです。私の場合、熟成期間が約2年と長いため、ブルゴーニュ樽が理想的と考えています。ですから、ブルゴーニュの木樽の数を増やして、全キュヴェのクオリティ向上を計ります。

― では、「ドメーヌ マルク テンペ」のワイン造りの原点とは、何ですか?

M:原点と聞かれれば、やはりビオディナミ農法の追求です。93年からビオロジック、96年からビオディナミ農法に取り組んでいますが、良いワインは、いかに良いブドウを作るか、これに尽きるんです。素晴らしいブドウを作るための、土壌作りと環境作りを一年を通して行うことで、テロワールを引き出す。テロワールを引き出すための最適な手段がビオディナミ農法です。この農法は、料理のレシピのようなものではなく、とても時間がかかるものです。ブドウそのものだけでなく、周囲の環境を観て判断することも多いですからね。この年齢になっても、まだまだ学ぶところが多いですよ。

― 新キュヴェ『リクヴィル アンヌ』のブドウ畑のことを教えてください。

M:私の本拠地ツェレンベルグ村から西へ2kmほど離れたリクヴィール村に「ラ ターブル デュ グルメ」というレストランがあるんですが、その店のソムリエールは、ビオディナミのワインへの理解や造詣が深い人なんです。で、一緒にワインの試飲をしたり、互いに情報交換をする、昔からの知人です。『リクヴィル アンヌ』は、彼女の家族の所有畑を借りて造り始めたワインで、一つの単一畑(リュー ディ)に植わっている、ピノグリとリースリングの2品種を混醸しています。
 
借り畑で造るワインには、同じく単一畑のシュポーレンのゲヴュルツトラミネール、シュナンブールのリースリングがありますが、『リクヴィル アンヌ』と同じタイミングで『 ゲヴュルツトラミネール シュポーレン』を(リリース後、即完売)、そして『リースリング シュナンブール』は、これからリリースの予定ですので、ワインの到着を楽しみにお待ちください。2014年から、これらのブドウ畑の栽培にも携わっています。

― 新キュヴェ『ピノブラン プリーゲル』この畑には、物語があると伺ったのですが…。

M:プリーゲルは、私にとって縁の深い場所なんです。シゴルスハイムとキンツァイムの間にあるのが、プリーゲルです。じつは、私はシゴルスハイム生まれなんですよ。第二次世界大戦中の1945年、フランスとアメリカの連合国軍とドイツ軍との間でコルマールの戦いがありました。この辺りは不運にも大きな戦禍を受けた結果、破壊され、しばらくの間、廃墟となったんです。仮設住宅しかなかったプリーゲルで、産声をあげたのが私です。その仮設住宅が撤去されたあと、アルザス人たちはブドウ畑の復興を始めました。父は、プリーゲルのなにもない野原に、ピノブランのブドウ樹を植えました。1960年代のことです。この畑のピノブランは、これまで収量の問題で一つのキュヴェにできず、ツェレンベルグとしてリリースしてきました。ですが、プリーゲルの歴史の記憶を残すもの、そして父へのオマージュを捧げるワインとして、2015年からは単一畑で仕込むことにしたんです。

― 父へのオマージュ、それはマルクの歴史が刻まれたワインともいえますね。特級畑「フルシュタンチュム」もリリースされましたが、どのような特徴ですか?

M:マンブールと同じ尾根にある区画が特級畑「フルシュタンチュム」です。小さな谷底にあるのが特級畑シュロスベルグで、そこを基点に尾根の延長線上にある区画が「フルシュタンチュム」になります。シュロスベルグは、風がよく通りますが、その風が少し届く位置にある畑です。この土壌は、砂岩が含まれた粘土石灰なので、軽い土なんです。かつ、風がタッチする涼しい区画ですから、マンブールのように横に広がる印象でなはく、縦に伸びる、奥に深いワインに仕上がります。現在、リリースされている12年は、貴腐菌が付着したことで、ブドウの水分が蒸発し、味わいに集中力が出ました。ですから、このヴィンテージは涼しい畑の特徴よりも、貴腐による香りや味わいがとても感じられる年です。蜂蜜やバラ、ライチの香りは、貴腐によるものですよ。