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アルザスワインの中心の街コルマール近郊、アムルシュヴィール村にドメーヌを構えるクリスチャン ビネール。ビネール家は、1770年からワイン造りを行う、伝統あるドメーヌです。

クリスチャン ビネールのプロフィール
アルザスワインの中心の街コルマール近郊、アムルシュヴィール村にドメーヌを構えるクリスチャン ビネール。ビネール家は、1770年からワイン造りを行う、伝統あるドメーヌです。農薬や除草剤などの化学薬品を使わない自然な農法でワイン造りを始めたのは、彼の父ジョゼフの代からでした。化学肥料や農薬がもてはやされた時代に一貫して無農薬のブドウ栽培に取り組くんだ父からビネール家の伝統を引き継ぎ、自然と一体になったワイン造りの思想をさらに突き詰めて、ビオディナミ農法に切り替えました。醸造では天然酵母での発酵、SO2もほとんど使用しない造りで凝縮感ある果実味と豊かなアロマのワインを造ります。
インタビュアープロフィール
バブルの落とし子。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、WEB・モバイルプランナー、エディター、ライターとして活躍中。2012年1月にオープンした自然派ワイン専門店『pcoeur(ピクール)』のプロデューサーを担当し、現在、オーナー兼店主を務める。
 
【編集・執筆】池田 あゆ美|pcoeur(ピクール)
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

新カーヴでも自然と一体となった思想でワインを造る

新カーヴでも自然と一体となった思想でワインを造る

― 新カーヴ(醸造所)は、とてもユニークなデザインですね。どのような思想がありますか?

C:建物は、エコ システムの考えがベースになっていて自然エネルギーの循環をうながせる設計です。自然界には直線が存在しないですよね。ですから、建物全体が人工的な直線や角を排除した、曲線と曲面で構成されています。
 
ワイン造りでも自然のエネルギーを取り込めるよう工夫されています。まず、場所についてですが、その下には水脈が交差しています。その水の流れに呼応するように動く空気の脈がある、そこにカーヴが建っているんです。
 
木材も石もアルザス産、木材はビネール家近くの森のモミの木を切り出しました。寺院や教会などで使われるような材料です。木を切り倒すのも、農業暦(ビオディナミ カレンダー)にしたがい、木を使うときも幹の方向や上下など自然の流れにそって、その特性を活かしました。
 
カーヴは半地下にあり、発酵・熟成用の樽を並べています。建物の外壁も地下の内壁もアルザス産の砂岩を積み上げ、コンクリートで固めるようなことはしていません。わずかな隙間から風が入り建物が呼吸することで、空気を循環させて温度や湿度を一定に保つためです。また屋根には30cmの土を盛り、植物を自生させました。そうすることで、カーヴ内の温度変化を最小限に留めるようにしています。環境すべてが、ベストな条件でワインを造るためのものです。

― 醸造も自然と一体となった考え方ですね。では、醸造面での変化はありましたか?

C:ワインの不安定さや問題などは減りましたよ。ブドウ栽培と同じで、自然と共生するカーヴですから、自然エネルギーをワインが取り込み、より強いものができている印象はあります。ワインのエネルギー値が上がっているというか…。あとは、程よく衛生的な環境が整っていることで、とても良いバランスが保たれていますね。もう少し説明をすると、発酵によってワインはできますが、このときいろいろな働きをする数えきれないほどの細菌が働きます。で、そのなかにも良い働きをする細菌と悪さをする細菌がいる。バランスが整っていると、良い細菌が悪い細菌を食べて、ワインを良い状態に保ってくれるんです。新カーヴは、そのバランスが理想的な状態で働いてくれます。
 
誤解を招くといけないので補足しますが、程よく衛生的というのは、化学物質を使わないという意味です。ですから、衛生管理は徹底していますよ。
 
スペース的なことでいえば、カーヴが広くなったことで樽を増やすことができ、熟成期間も2~3年と、これまでよりも長い期間置けるようになりました。熟成期間に余裕を持てることは、ワインがより良く安定したタイミングまで待てるということに繋がります。

― 発酵熟成はフードル(大樽)を使うことが多いと思いますが、それはなぜですか?

C:木樽は、取り込む酸素バランスが良いと考えています。ワインが程よく酸素とふれて呼吸することで、徐々に酸素に慣れていくことができます。ステンレスタンクは嫌気的環境にあるため、ワインが酸素に慣れないままになるんです、いざ酸素にふれたとき酸化しやすい状態になってしまう。ですから、私のワインの発酵・醸造では、フードルを使用することが多いです。

― では、酸化に対しては、どのように考えていますか?

C:まず前提としてお伝えしたいのですが…アルザス地方は、おもに白ワインを造る産地ということです。赤ワインには、酸化にたいするプロテクションとなるタンニンや酸がある。ですが、白ワインは、それらの要素が少ないため儚くてもろい。ですから、より酸化に対する配慮が必要になるんです。ワインを造る段階で、酸化に対しての耐性ができる状況を作ってあげる、それが1つ。
 
あとは、ウイヤージュ(樽熟成の蒸発による目減りを注ぎ足す作業)がとても重要です。フードル上部には水位計を置いて、フードル内のワインが常に満たされているように、確認を怠らないということですね。水位計の管の部分に液体が見えていれば、フードル内はワインで満たされている状態です。
 
自然と一体になった思想でワイン造りをしていると説明してきましたが、ただ自然に任せていると、野性的なワインや粗野なワインができてしまうんです。ですから、その方向性を見極めて、導くことが造り手の仕事ですね。自然と共生するワイン造りはとても手間がかかる作業なんです。

― では、最後に…日本のビネール ファンにひと言、お願いします。

C:ワインはお酒というだけでなく、感動を運ぶものです。ですから、私は、良いワインを造るために最善を尽くして、あなたに喜ばしい感情をわき上がらせるワインを届けたいと思っています。飲み手であるあなたは、私のワインを飲むとき、とにかく楽しむこと。私は、立ち止まることなく、新たな挑戦に挑みます、生きたワイン、感動のワインを届けるためにね。

― 本日はありがとうございました。
 
新カーヴを見学に訪れた6月のある日。案内されたカーヴには、しっとりひんやりとしながら、とても健やかな空気が流れていた。ブドウ畑で見た、深みのある茶色い、美しいフカフカの土のような生きたエネルギーは、そこでも感じることができた。クリスチャンの「生きた畑、生きたブドウが生きたワインになる」という思想は、水や空気、波動までもすべてが円滑に流れることによって、健やかなエネルギーを取り込み、良いワインになるということだと、そこで強く感じた。造り手のクリスチャンもつねに挑戦をし続けているのは、いつも流動的に生きている証。だからこそ、すべてが生きて、美しい。