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修道僧たちによって造られていたブルゴーニュ・ワイン。伝統を重んじる地、ブルゴーニュに、自然からのメッセージをワインに写し出す若き醸造家がいます。父からの教えの通り、テロワールを尊重する造りを行い、真摯にワインに向き合います。そんな造り手オレリアン・ヴェルデのワイン造り哲学、そしてブルゴーニュ・ワインの魅力に迫るインタビューです。

オレリアン・ヴェルデのプロフィール
ブルゴーニュのブドウ畑も化学薬品漬けになっていた70年代からビオロジック栽培を実践していた父・アランの意思を受け継ぎ、モータースポーツのプロ選手として養った精神力で意欲的に自然に則したワイン造りに挑戦する。ワイン造りにおいても抜群なバランス感覚を発揮しているが、それは彼が細胞の奥深くに持つワイン造りの才能が成せる技かもしれない。
オレリアン・ヴェルデから動画メッセージ
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インタビュアープロフィール
バブルの落とし子。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。モノを見極める審美眼は周囲からの評価も高く、数多くの執筆を手掛ける。おいしいものへの追求も人並み以上なのだが、アルコールが得意でないため、ワインには量より質を求める。好きなワインのタイプは、ヴァン・ナチュレルの白。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、WEB・モバイルプランナー、エディター、ライターとして活躍中。2012年1月にオープンした自然派ワイン専門店『pcoeur(ピクール)』のプロデューサーを担当し、現在、オーナー兼店主を務める。
 
【編集・執筆】池田 あゆ美|オフィス アイダブリュー
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

ブドウ畑に立ち、自然やブドウと向き合い、リズムを読み解く

ブドウ畑に立ち、自然やブドウと向き合い、リズムを読み解く

修道僧たちによって造られていたブルゴーニュ・ワイン。伝統を重んじる地、ブルゴーニュに、自然からのメッセージをワインに写し出す若き醸造家がいます。父からの教えの通り、テロワールを尊重する造りを行い、真摯にワインに向き合います。そんな造り手オレリアン・ヴェルデのワイン造り哲学、そしてブルゴーニュ・ワインの魅力に迫るインタビューです。

ブルゴーニュと言えば、ロマネコンティ。左端の上は、ダモードの畑

― ワイン醸造家になる前は、モータースポーツの世界で活躍されていたのですよね。

オレリアン(以下 A):はい。モーターサイクルのフランス・ナショナルチームに所属して、スペインやポルトガルなどヨーロッパ各国のレースにプロとして参戦していました。しかし、レースはつねに危険をはらんでいるため、長く続けることは難しかったのです。
ワイン醸造家のダヴィッド・デュバンと草レースをする機会があり、彼がドメーヌで働くことを提案してくれたことが、転向のきっかけでした。おりしも、地に足をつけた人生を模索していたときだったのです。2002年にモーターレース・プロを引退し、彼の元で働き始めました。彼のワイン造りを手伝うなかで、この仕事こそ、生涯の仕事だと開眼したのです。

― あなたの父、アラン・ヴェルデは、ブルゴーニュのビオ栽培の先駆者であり、ワイン醸造家でもある方ですが……。

A:数あるワイン銘醸地のなかでも、ブルゴーニュは伝統を重んじる土地柄です。ブルゴーニュワインは、7世紀にまで遡る長い歴史を持っていますから。ブルゴーニュでは、ドメーヌやその伝統を父から子へと受け継ぎ、さらに未来に繋げるという使命があります。かたや、レールを敷かれた人生に疑問を持つ子供たちがいることも事実です。
私の場合は、違う世界を見たからこそ、ワイン醸造という道を自分の意思で選択することができました。ドメーヌに戻る時期は、少し遅かったかもしれないのですが、伝統を継承していく大切さを実感しています。

― ワイン造りについては、ダヴィッド・デュバンから学んだことが多いのでしょうか。

A:ダヴィッド・デュバンの元で働きながら、専門学校に通い、有機栽培の勉強をしました。そして、インターンシップとして父の友人でもあるマルク・アンジェリやギィ・ボサールに就き、その地で長く実践されているビオディナミでの栽培方法を学びました。彼らはミュスカデの栽培でビオディナミを実践していました。
ロワールで学んだことを、デュバンとの仕事でブルゴーニュ式へと転換し、改善していきました。もちろん、父の教えである、テロワールを尊重するということは、強く意識しています。デュバンからは、醸造の考え方を多く学びました。

― あなたは、いつも土に汚れ、そのグローブのような大きな手で畑の仕事をしている印象が強いですね。

A:畑の仕事で大切なことは、自然やブドウのリズムを読みながら、作業をするということです。
ブルゴーニュでは、ワインは基本的に単一品種で醸造されます。ピノノワールは、テロワールの個性を描きだす品種ですし、ブルゴーニュのテロワールは、狭い地域ながら北に位置するジュヴレ・シャンベルタンと南に位置するヴォーヌ・ロマネでは、土壌や気候により、味わいや香りに違う個性がでます。ですから、テロワールを尊重し、ワインに反映したいのです。そのためには、ブドウ畑に立って、その時その時の感触を全身で確かめるしかありません。

彼の指が、畑仕事をどれだけ入念にやっているかを物語っている

― ブルゴーニュでピノノワールを無農薬栽培する苦労や注意しているのは、どんな点ですか。

A:私は、ブドウ栽培を始めたときから、農薬を使わず、有機で栽培しています。ですから、とくに苦労は感じません。畑の仕事で特に注意しているポイントは2つあって、1つ目は土を作る仕事を怠らないということです。土を耕し、空気と触れさせることで、土の状態を活性化し、微生物の活動を活発にすること。
2つ目は、ピノノワールの果房は小さく密着しているので、病気や腐敗を避けるようにブドウが風通しの良い状態に保つことです。畑の仕事は、タイミングを逃してしまったら後悔することになるので、すべての作業を一生懸命にこなします。

― 買いブドウでもワインを造っていますが、その場合、畑の仕事は任せているのですか。

A:いいえ。まず私の思いの根幹にあるのは、ブルゴーニュの特徴を表現できる、最良のエリアでワインを造りたいということです。
買いブドウを選ぶ際、畑に足繁く通って、ブドウの状態を確認します。そして、その畑の造り手が同じフィロソフィーを持っているかどうかが鍵です。すでに有機栽培の畑が理想なのですが、ブルゴーニュでは全体の2%程度しか実践できていない現状があります。一緒に畑に立って仕事をしながら、有機栽培に転換することを目指します。収穫も自分の手で行っています。実際、畑でしている仕事は同じということになりますね。