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『ゴーミヨ誌』でも4ツ星に掲載されるアルザスのマルク・テンペ。ビオディナミ農法でブドウの魅力を最大限引き出す。葡萄と造り手の調和、ハーモニーを探し求め、おいしいワイン造りを極限まで追求する。

マルク・テンペのプロフィール
ビオディナミ農法は、幼少の頃から感覚を養う必要があると説く。その感覚とフランスINAO(フランス原産地呼称国立研究所)での豊富な経験により造り出されるワインは多方面で国際的にも高く評価されている。後進の育成にも熱心で人望も厚く、彼の人柄が伺える。
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インタビュアープロフィール
バブルの落とし子。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。モノを見極める審美眼は周囲からの評価も高く、数多くの執筆を手掛ける。おいしいものへの追求も人並み以上なのだが、アルコールが得意でないため、ワインには量より質を求める。好きなワインのタイプは、ヴァン・ナチュレルの白。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、WEB・モバイルプランナー、エディター、ライターとして活躍中。2012年1月にオープンした自然派ワイン専門店『pcoeur(ピクール)』のプロデューサーを担当し、現在、オーナー兼店主を務める。
 
【編集・執筆】池田 あゆ美|オフィス アイダブリュー
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

マンブールらしい明るい品格のなかに漂う、スケール感あふれる旨味は、ほかを圧倒する個性と味わいに脱帽する。

マンブールらしい明るい品格のなかに漂う、力感あふれる旨味

セミナーの前編では、田中克幸氏から料理からワインを選ぶうえでの法則とアルザス・グランクリュの可能性、そしてマルク・テンペからはテロワールやブドウの個性を表現するための栽培や醸造方法を聞くことができました。後編では、「ドメーヌ・マルク・テンペ」のグランクリュ・ワイン4本を試飲しながら、アルザスのテロワールやセパージュについてさらに深くお2人に分析していただきます。

— 『Riesling Mambourg 2005 - リースリング マンブール -』

テンペ(以下 T):カイゼルベルクの町から突き出しているような丘にあるのが、マンブールです。

このマンブールがグランクリュとされる理由には、2つあります。
まず一つは、土壌が石灰質礫岩だということ。もうひとつは、斜面が真南に向き日照量が豊富でとても暑い畑であるということです。ここには、80%の割合でゲヴュルツトラミネールが植えられていて、ゲヴュルツトラミネールに向いている畑だといわれています。ほかにも、ピノグリ、ピノノワール、リースリングが植わっています。なかでも少し涼しい南西向きの場所に植わっているのが、リースリングです。
このワインからは、リースリングの特徴もさることながら、テロワールの特徴である小石のような香りを感じていただけます。ビオディナミによってテロワールから引き出された味わいが反映され、ミネラル感や酸を口に含んだ瞬間から余韻にいたるまで感じていただけます。非常に長い余韻とともに、丸さも感じられます。この丸みは貴腐菌に起因するものです。適度な酸やミネラルにより、バランスがうまく保たれています。
マリアージュの例としては、フォアグラのような丸く脂ののったテクスチャーとの相性が良いと思います。

田中(以下 K):リースリングは、アルザスのなかでもっとも馴染みがある品種です。このワインを判断するときにもっとも大事なものは、マンブールとは何なのか。そして、そのテロワールがどれだけ純然な形で美しく表現されているかがワインの評価となるのです。
マンブールのテロワールを味わうときに、覚えておかなくてはいけない大切なポイント、それはこの畑が山脈の渓谷がちょうど東に突き出た部分の丘陵で、南からの太陽が遮るものなく当たる、非常に暑い気候であること。そして、コングロメレイト(礫岩)の形をとる第三紀の石灰岩であるということ、この2つです。
前者の気候的なことに関しては、厚み、ボリューム感、そしてアルコールの高さや甘みに現れ、シトラシーではなく、トロピカルな方向に振られている味わいで確認できます。では、第三紀のコングロメレイト独特の味わいとは何なのか。それは比喩的になりますが、非常に力強くて、縦に食い込んでいくような太いエネルギーを持ったミネラル感です。
この太いミネラル感とのマリアージュを成功させるために、何を考えなくてはいけないかというと、それはテクスチャーです。これは、鯛やヒラメのような繊維質を感じるようなもの、つまりエレガントであっても、食べたときに筋肉の構造を感じるものがいいのです。そして、マンブールは暖かい区画ですから、味つけとしてトロピカルなものが必要になる。このように考えれば、料理とワインの道筋が必然的にでてきます。
マンブールのリースリングは、非常にレアです。ここでなぜリースリングか? マンブールは基本的に均一な土壌ですが、西側の部分には隣の区画フルシュテンタムのドッガー亜流の石灰岩が混じっている。そして、風が谷を通ることによって、少し冷涼である。ということで、ここにリースリングを植える正当性が出てきます。そういったことを前提として、このワインを見ると、マンブールらしいゴツさや積極性があるものの、それが粗雑さに繋がっていない、しっかり焦点が定まり、マンブールらしい力感が出ているところが、彼が本物のビオディナミストであるところの実力だと思います。

— 『Gewurtztraminer Mambourg 2005 - ゲヴュルツトラミネール マンブール -』

T:ゲヴュルツトラミネールという品種は、しばしば酸に欠けるといわれることがあります。しかし、石灰質の区画に植え、かつビオディナミ栽培をすることで、延びやかな酸が引き出されます。私は、いつもブドウが完熟した状態で収穫を行います。
このワインから、オレンジやレモンのような柑橘系の香り、かつスパイシーで濃密な香り、そしてミネラルや酸から、そのキャラクターを感じていただけるのではないでしょうか。2005年は、非常に成功したヴィンテージで、リースリングと同様に、骨格を支える酸の存在が感じられます。
もうひとつ、このワインは非常に余韻が長いです。フランスでは、ワインの余韻が尾を引くことをコーダリーという言葉で表現しますが、まさにこのワインは長く崩れない余韻を持っています。
マリアージュは、レモンやオレンジの柑橘系ソースを添えた小エビのグリエやロックフォールなどのブルーチーズによく合います。

K:ゲヴュルツトラミネールのワインの善し悪しを判断するのは、ある意味、簡単ともいえます。ワインが良くなればなるほど、飲んだあとにゲヴュルツトラミネールの存在を忘れます。
では、ゲヴュルツトラミネールがもたらすものは何か。良い個性は、スパイシーさであり、フローラルさやグラ、そして余韻の長さ、しっかりしているけれども柔らかめの酸です。悪い個性は、あの下品さ、ないしはコシのなさやミネラル感の不足ということです。
グラがあり、酸が低く、フルーティな品種ということは、ボルドー品種で考えるならメルローです。ボルドーのメルローは、右岸の粘土質のところに植わっています。粘土というのは、味を引き締め、酸を持ち上げる役目をしています。マンブールは、石灰岩が風化して粘土になった土壌を多く含んでいます。ですから、柔らかい品種であるゲヴェルツトラミネールを、固いキャラクターをもたらす粘土が引き締めている。それが重要なポイントです。
このようにミネラリーなゲヴュルツトラミネールは、トロピカルな黄色系フルーツとスパイスのソースをかけたようなものだと考えればいいのです。脂肪を持っているような肉、豚や鴨、イノシシなどに、黄色系のフルーツソースを組み合わせたときに、使いやすいワインです。