― 畑の象徴であるクロは、葡萄の味わいにも影響するのですか。
S:もちろん。ワインのアロマに違いがでます。同じ品種、同じ熟度で比較してみると、クロに沿った葡萄は、イチジクやプルーンのようなドライフルーツや凝縮感があるコニャックのようなアロマを、そしてほかの葡萄はフランボワーズ(ラズベリー)などの赤い果実のアロマとして現れるのです。
― 抽象的な質問かもしれませんが、醸造の過程でどのような味わいを表現したいと思っていますか。
E:味わいに関しては、“何を造るか”という意図ではなく、“どう造るか”という視点で取り組んでいます。その年のヴィンテージにあわせて、最良なワインを育てる醸造手段を考え、判断を下しているということかな。例えば、2004年は葡萄の熟す時期が遅く、10月中旬が収穫だったのですが、その年は*マセラシオン(かもし)の時間を短めにしました。もちろんヴィンテージだけでなく、テロワールの個性も大切にしています。
― 日本では、『オスピス・ド・ソミュール・ラ・ロゼ』の初入荷後、すぐに完売してしまいました。今秋、再び日本で会えるのを楽しみにしています。
E:2007年は、『オスピス・ド・ソミュール・ラ・ロゼ』を造ることができませんでした。原因は、霜と鳥の被害によって、葡萄の収量が少なかったためです。このワインは、収穫のタイミングにも特徴があって、この地域でシュナン・ブランのセック(辛口ワイン)を造るとき、熟していない状態で収穫するのが一般的と言われます。けれども、私たちの場合は完熟してから収穫します。アッサンブラージュ(ブレンド)するカベルネ・フランは、同じ日に収穫しますが、こちらは熟し始めのタイミングになります。実は、このロゼは、妻・セリーヌのために造ったものなのです。彼女は、ロゼが好きだから。
― 『オスピス・ド・ソミュール・ラ・ロゼ』『オスピス・ド・ソミュール・ブティフォル』それぞれの楽しみ方とベストマッチなマリアージュを教えて下さい。
S:『オスピス・ド・ソミュール・ラ・ロゼ』は、アペリティフに。週末マルシェ(市場)のカフェで友達たちと一緒に楽しむような場面にもぴったりだと思います。難しいことを抜きにして雰囲気を楽しむもの、そしてのどの乾きを癒すのにぴったりなのがこのワインです。マリアージュは、サラダやグリルなどシンプルな料理がおすすめですね。私の友達は、このエチケットのイメージから『キュヴェ・バービー(バービー人形)』と呼びます。この呼び名も素敵だと思いませんか。
E:『オスピス・ド・ソミュール・ブティフォル』は、牛肉や羊肉のような赤肉にソースのかかった料理や赤ワイン煮込みに合います。冬に楽しむイメージだね、これは身体を暖めるワインとして楽しんでみて欲しいですね。この地域のカベルネ・フランは、タンニンが強い印象を持っている人も多いと思うけど、このワインのタンニンは丸みがあって上品だから、あなたを優しく包み込んでくれるしょう。
― 味わいとともに、あなたたちのワインの個性を表現しているのはエチケットですね。
S:私たちのブランドカラーは、ベージュ、赤、黒の3色です。葡萄の花のイラスト、そしてブランドカラーをすべて配したデザインは、『オスピス・ド・ソミュール・ブティフォル』です。『オスピス・ド・ソミュール・ラ・ロゼ』は、フェミニンで丸い印象を表現しながらも、できるだけシンプルなデザインにしました。私たちのドメーヌの象徴であるクロを本の表紙のようなデザインに仕立てたのが『レ・ミュール』です。
― ワインの生まれたこの地を思い描きながら、ワインを楽しむのもいいですよね。
S:ここには、まるでロワールの魔法にかけられたような風景が広がっています。朝の光が空を優しい青紫色に染めていき、ロワール河の川面に美しく輝く風景、そして陽が地平線に沈むときの空の移り変わり、すべてが映画のワンシーンのようです。そして、私たちの芳醇なワインを生み出すのは、ソミュール城や街のあちこちで見ることができる石灰質のテロワール(土壌)です。そんな風景に想いを馳せて、あなたの感性で私たちのワインを愛してみて下さい。
― 本日は、有り難うございました。
彼らは、ワイン造りにおいて、マーケット優先の表層を飾るようなことはしない。あくまでも、最高のワインを造るために本質を高めるための手段を用い、磨きあげる、それが彼ら流なのです。彼らの「個性」や「思い」を反映させたワインは、あなたを決して疲れさせず、優しく上品な味わいであなたを包み込むのです。
*マセラシオン(かもし)
葡萄の液と果皮や種子を接触させて成分を抽出すること。