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法王の別荘地「シャトーヌフ デュ パプ」ローヌ河の左岸に位置するこの産地は、コート デュ ローヌ最高峰のワインを生み出し、濃厚で深みのある味わいが特徴といわれます。この産地の最北端に位置する『ドメーヌ ド ヴィルヌーヴ』の9haの畑は、「シャトーヌフ デュ パプ」のトップ生産者の一人といわれるシャトー ド ボーカステルの南隣に位置する、とてもポテンシャルの高い区画です。現当主のスタニスラス ワリュットはパリ生まれ。優しい抽出でエレガントな「シャトーヌフ デュ パプ」が、彼のワインの特徴で「フィネスのあるワインこそ、本当のシャトーヌフ デュ パプの魅力」だと話します。1995年よりビオディナミ栽培を開始。1998年にエコセールとビオディヴァンの認証を取得。

のプロフィール
法王の別荘地「シャトーヌフ デュ パプ」ローヌ河の左岸に位置するこの産地は、コート デュ ローヌ最高峰のワインを生み出し、濃厚で深みのある味わいが特徴といわれます。この産地の最北端に位置する『ドメーヌ ド ヴィルヌーヴ』の9haの畑は、「シャトーヌフ デュ パプ」のトップ生産者の一人といわれるシャトー ド ボーカステルの南隣に位置する、とてもポテンシャルの高い区画です。現当主のスタニスラス ワリュットはパリ生まれ。優しい抽出でエレガントな「シャトーヌフ デュ パプ」が、彼のワインの特徴で「フィネスのあるワインこそ、本当のシャトーヌフ デュ パプの魅力」だと話します。1995年よりビオディナミ栽培を開始。1998年にエコセールとビオディヴァンの認証を取得。
インタビュアープロフィール
ワインショップ『pcoeur(ピクール)』店主。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、プロモーター、エディターとして活動。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

複数品種、そして古樹、若樹の混植

複数品種、そして古樹、若樹の混植

― 「シャトーヌフ デュ パプ」らしいブドウ栽培、畑仕事の工夫はありますか?

S:そうですね、「シャトーヌフ デュ パプ」は、伝統的に13種のブドウをブレンドしてもよい産地なんです。13種も使用が認められている産地は、ほかにないですよね? ですから、自然に複数品種植わっている畑が多い。さらに混植のなかで幅広い年齢の樹も混植されている、その多様性も加わって、バランスが取れるんです。
 
私の畑は、土壌のタイプが大きく二つに分けられます。先ほどお話した古樹の畑…この畑は、ガレ ルーレも転がる赤粘土の土壌です。50歳から100歳の古樹たちは、畑のなかの歴史の証人であって、その土地に住む長老なんです。長老たちに生存してもらうためには、強力なライバルを出現させてはならない。長老は、人と同じで杖をもって生きています。ですから、バランスを崩さないよう、より寄り添ってあげる必要があります。ですから、この畑ではすべての畝を耕します。
 
一方で、50年に満たない若い樹の区画は、砂質です。この畑の場合は、樹もエネルギーが漲っています。ですから、エネルギーを放出できるように、枝を伸ばして茂らせておき、剪定は一番遅いタイミングにします。この畑では一畝おきに耕します。

― ブドウの樹も年齢によって、変化していくのですね?

S:古樹は、地中に深く根を張り、自然と低収量になっていくため、味わいは素晴らしく複雑味や厚みが出てきます。体力には衰えが見えても、暑い年も寒い年も経験しノウハウを蓄積していて、ブドウ自体が、熟考できて機が熟すタイミングを知っています。ですから、私たち生産者はそのタイミングを待てばいいんです。
 
かたや若樹は、やはりパワーに溢れて、たくさんのジューシーな実を付けます。古樹をうたうワインもありますが、私はどちらが良い悪いという訳ではなく、畑でもワインでも古樹と若樹それぞれが補完しあってバランスがとれていると感じています。

― あなたがビオディナミを実践するなかで、気づいたことはありますか?

S:ビオディナミの調合剤で基本となるのが、500番と501番で、この2種類は直接畑に散布されるもので仲介役を担います。500番は「ホーン マニュア=牛角糞調合剤」、501番は「ホーン シリカ=石英水晶調合剤」で、これはご存知の方も多いですよね。501番はブドウに散布することにより、葉の光合成を刺激し、より促進させる効果があります。ただ「シャトーヌフ デュ パプ」で成長期に501番を散布してしまうと、太陽の光線が強いため逆効果になり、葉が焼け焦げてしまうんです。ですから、私は収穫期のあとに撒いています。このタイミングで撒くことで、より長い時間、葉が生き続けることができ冬眠の間のエネルギーを蓄えることができます。そして、土中の根にそのパワーを伝えることができるんです。新陳代謝を促進するようなイメージですね。
 
500番は、牛糞を雌牛の角に詰めて作る調合剤です。大地を活性化、根の成長を促進する役割があります。が、この調剤については、使用しているうちに、ふとした疑問が湧いてきました。撒くことで効果は得られます。ですが「シャトーヌフ デュ パプ」には、そもそも牛がいないんです。生態系にいない生き物を用いることに、不自然さを少しだけ感じます、性格的に(笑)
 
ビオディナミの取り組みのなかで、私自身が何よりも重要だと感じているのが「マリア トゥーンの天体カレンダー」です。畑だけでなく、ワイン造りにおいても、重要な作業をする日程は、このカレンダーによって計画し、実践します。

― それでは、醸造の過程で、大切にしていることはありますか?

S:醸造の話は、すぐに終わりますよ(笑)まず、何よりも大切なのは、完璧なブドウを収穫することです。収穫時のブドウのトリミング(切り落とし)を重要視しています。手摘みで選果しながらブドウを収穫しますが、とくに香りにも注意を払い、酢酸(菌)や虫の付着がないかを徹底的にチェックします。収穫した果実は、地下7メートルの蔵のタイル張りのコンクリートタンクに重力で投入します。このとき、エグラッペ※1をした果粒と果房のままのブドウを交互に5段の層にミルフィーユ状に重ねていきます。毎日1層ずつ積んでいき、5層が揃ったときに、たった一度だけルモンタージュ※2をします。これは、発酵を促すためのものです。発酵中は、ひたすらワインになるのを待つだけです、何もしない。ピジャージュやデレスタージュといった色素やタンニンの抽出を促進するような作業は一切行いません。私の感覚では、醸して抽出するというよりもアンフュージョンの感覚に近くて、浸して成分を優しく振り出しているような感じで、ワインを造っています。
 
コンクリートタンク内は、温度を20℃から25℃に保つようにしていて、これは自生酵母の至適温度です。私は「フェミナン(女性的)」なタイプのワインを造りたいので、そのためにもこの温度帯が最適なんです。
 
発酵中は、ブドウを極力触りたくない。何も触らず、醸すだけ。何もしないといっていますが、不安がないといったら嘘になります。でも、これが一番良い方法だと思っていて、問題が発生したら手当てをするのが生産者である、私の仕事です。

― では最後に、あなたにとってワインとは? ワイン造りとは何ですか?

S:私にとってワインを造ることは、人生そのものです。畑で働くことが何よりも好きだし、自然との調和があります。そして、働くことは、自然と共生しながらワインを造るということです。
 
私にとってワインは、喜びであり、その喜びを分かち合うものです。日本の皆さん、どうぞ、美味しく召し上がれ! 乾杯。

― 本日はありがとうございました。
 
スタン(スタニスラス)に、ワインを飲むシチュエーションやマリアージュを聞いたとき、彼は「自分の発言で飲み手のイマジネーションや多様性を狭めたくない」と、話していました。彼の語った「ビオディナミに一つの答えはない」という言葉の通り、その答えも一つではないのかもしれません。最も重要なのは自分の感性でワインを楽しむこと。スタンのワインは、今飲んでも「シャトーヌフ デュ パプ」の風土を映していて、骨格はしっかりしながら、口当たりは柔らかく、フィネスを感じます。それでいて、数年置けばグランヴァンの風格や佇まいを持つようになるワインです。芸術的な側面で語ることもできますが、大地のエネルギーやエッセンスを、造り手の思想や情熱を、すべて熱量に変えて伝えてくれるのがワインです。それは、五感で感じれば、飲み手である私たちの感性を覚醒してくれるもの、だからワインに魅かれるのです。

注)※1 エグラッペ=ブドウの果梗をはずし、果粒からワインを造る方法。
注)※2 ルモンタージュ=赤ワインの醸しの段階で、果帽の上からワイン果汁をかけて循環させる工程。