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ディジョンでワイン造りとは全く関係のない家系に生まれたジル バロラン。幼少の頃、ブドウの収穫を手伝った経験からワインに魅せられ、商業学校へ通いマーケティングを学び、「いつか自分のワインを造りたい」という夢を叶えるべく、1996年にボーヌのネゴシアンに就職したのがワインの世界への第一歩でした。アントナン ロデ社で働きながら醸造学校に通い猛勉強。フィリップ シャルロパンやジャック プリウールなどで修行を積み、2005年、ついに念願のドメーヌを設立し、大きな夢を実現します。2007年には、現在のモレ サン ドニに移転。自然農法、SO2(酸化防止剤)無添加、一切補糖なしのワイン造りによって、テロワールの個性を表現した、よりピュアなワインを目指し、日夜挑戦し続けます。

ジル バロランのプロフィール
ディジョンでワイン造りとは全く関係のない家系に生まれたジル バロラン。幼少の頃、ブドウの収穫を手伝った経験からワインに魅せられ、商業学校へ通いマーケティングを学び、「いつか自分のワインを造りたい」という夢を叶えるべく、1996年にボーヌのネゴシアンに就職したのがワインの世界への第一歩でした。アントナン ロデ社で働きながら醸造学校に通い猛勉強。フィリップ シャルロパンやジャック プリウールなどで修行を積み、2005年、ついに念願のドメーヌを設立し、大きな夢を実現します。2007年には、現在のモレ サン ドニに移転。自然農法、SO2(酸化防止剤)無添加、一切補糖なしのワイン造りによって、テロワールの個性を表現した、よりピュアなワインを目指し、日夜挑戦し続けます。
インタビュアープロフィール
ワインショップ『pcoeur(ピクール)』店主。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、プロモーター、エディターとして活動。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

テロワールは、自然が造ったものにこそ現れる

テロワールは、自然が造ったものにこそ現れる

― 煎じるようなイメージ…それは具体的にどのような方法ですか?

G:ワイン造りの一番最初の工程で、房内発酵(酵素発酵)といわれる方法を採っています。収穫したブドウをしばらくの間、破砕しないんです。ブルゴーニュでは、ブドウをすぐ破砕するのが一般的です。ですが、私の場合、除梗はしますが破砕はせずに、粒の中で発酵が始まるのを待ちます。発酵が始まると炭酸ガスが発生して、内側から果皮がプチッと割れるんです。この方法だと、自然に流れ出す果汁(フリーランジュース)が、とてもクリアです。醸造の方向性としては、自然が作り出したブドウ本来のバランスを醸造の段階で崩さないため、このような方法を用います。残念ながら、人間の知りえている知識よりも、自然の持っている力、自然から学ぶことの方がはるかに深いし複雑です。だからこそ、手を加えないで何もやらない。テロワールというものは、醸造で手を加えることではなく、自然が造ったものにこそ現れる、ブドウありきなんです。

― では、ヴァン ナチュール、SO2(酸化防止剤)無添加のワイン造りについて、お聞かせください。

G:SO2無添加のワインを造りたいという思いだけでは、ヴァン ナチュールはできません。SO2の添加量は、ワインを造り始めた2005年から徐々に減らしましたが、必要ないと判断したのは2010年からです。2009年もほぼ使用していないんですが、2009年はもの凄く暑い年で、ブドウの酸度が低くなってしまい、若干の不安があったんです。ですから、極少量添加しました。2010年は、比較的涼しかった年で、ブドウが適切な酸度を保つことができました。酸度が高いということは、抗酸化作用があるということなんですね。2010年は、SO2無添加のワインを造れると判断して、挑戦しました。ただし、ヴィンテージやキュヴェによって、万が一でも不安要素がある場合は、瓶詰めの段階でごく少量添加する、というのが私の考え方です。その場合でも、醸造の過程では一切添加しないという方針です。

― SO2(酸化防止剤)無添加のワイン、取り扱いで注意することはありますか?

G:SO2無添加ワインが熟成しないとか、すぐ酸化すると、いまだにいわれることがあります。ですが、そんなことはありません。ただし、急激な環境の変化、温度変化はNGで、温度管理など適切な保管は必ず必要になります。そのためにはワインの輸入会社、酒販店、飲食店、そして飲み手のあなたの理解など、よき理解者が必須になりますね。

― ここ数年のブルゴーニュは、春の霜害や雹など、無慈悲で多難な天候が続いていますね。そんな年でも、サンスフルは可能ですか?

G:そうですね。年々の天候が、ヴィンテージの個性になるんです。その年の条件のなかで、ブドウが一番居心地よく、もっともバランスの良いタイミングを見計らって収穫します。それが、そのヴィンテージ本来の自然な姿です。その年の個性がそなわった、バランスの良いブドウがあれば、醸造の段階で崩れることはない。ですから、悪天候は、あまり問題ではありません。どちらかというと、先程もお話ししたような暑い年、ここ最近でいえば2015年のような年の方が注意が必要になります。総酸度が低くなりますからね。
 
SO2(酸化防止剤)無添加のサンスフルという観点ではありませんが、霜害や雹など多難な年、何が一番影響するのかというと収穫量だけの問題です。勘違いしないでいただきたいのは、収量が少ないから、品質が低いだとか、バッドヴィンテージだということはありません。

― ビオディナミで栽培してきたことで、ブドウに耐性がついてきたともいえますか?

G:そうです。ビオディナミを続けることで、抵抗力、自己防衛力が備わってきているといえます。言い換えれば、自然の姿でバランスがとれてきている。最善の注意が必要なのは、収穫のタイミングです。未成熟果、腐敗果をいかに発酵槽に入れないかということが何よりも重要になります。そのため、ブドウの選果には手間をかけ、慎重に行います。収穫時に畑で、そのあとドメーヌで2回の合計3回の選果を徹底して、腐敗果を取り除きます。

― 醸造の方法や使っている樽について、もう少し具体的にお伺いできますか?

G:まず最初に、すべてのキュヴェにおいて補糖はしません。良いブドウが採れれば、醸造の段階で補正をする必要はないんです。なぜ、一般的なワインが補正を必要とするかというと、バランスの悪いブドウを使うからなんです。健全でバランスがとれているブドウを使えばいいんです。先程も説明した通り、ブドウのバランスは自然が決めますから。
 
それでは、白ワインの醸造から説明しますね。アリゴテは、グレープフルーツやライムのような酸味が特徴ですよね。ですから、そのフレッシュ感を活かすために、樽は使わずに、発酵、熟成ともステンレスタンクを使用します。ブルゴーニュ ブランは、シャルドネだけではなく、シャルドネの亜種で果皮が紫色のシャルドネ ロゼ、マスカット香のシャルドネ ミュスケ、ピノ グロ(ピノ グリ)の4種のブドウの混植混醸です。600リッターのドゥミ ヌイという木樽を使います。この容量の樽を使用するのは、ワインが樽と触れる面積が少なくなる大きめの樽を使用することで、樽の香りを付きにくくするんです。樽を使用するのは、ワインが呼吸するための酸素交換性があるという理由からです。決して、樽香をつけるためではありません。
 
赤ワインは、2014年のワインまですべて小樽で発酵、熟成していました。2015年から使用する樽を変えて、デキュヴァージュ(アルコール発酵後に発酵樽からほかの樽に移しかえる作業)後、228リッターの木樽(フードル)を使用しています。小樽は、ワインの自然対流がおこりやすく、フードルの場合は、あまり動かない。目指すワインの方向性として、もっとピュアさや透明感が欲しかった。ですから、このフードルに変更したんです。

― 樽を変えるきっかけは、何かほかにもあったんですか?

G:目指すワインの方向性を考えていたとき、ふと閃いたんですよ(笑)…といいながら、じつはフードルを使った先駆者がいたんです。ディディエ ダグノーの「プイィ フュメ シレックス」を飲んだとき、正直、なぜこんなにもピュアなワインができるんだろうと思ったんですよ。ブルゴーニュだとムルソーのドメーヌ ルーロですね。この2人に共通しているのは、樽だった。よりピュアさと透明感のあるワインを造りたい、じゃあ、その樽を使ってみようと。2014年までのワイン、そして樽を変えた2015年のワイン、その違いをぜひ味わって感じてください。

― では、最後に…日本のバロラン ファンにひと言、お願いします。

G:ワインは、ひとつひとつ個性があってよいし、むしろ違っていなければいけません。コーラのように画一的なものではないんです。ワインは、ワインの産まれた土地、その雰囲気を旅をして、あなたの所に届けてくれるものです。そのテロワールを、造り手をあなたの感性で味わってみてください。

― 本日はありがとうございました。
 
ブルゴーニュは、赤はピノ ノワール、白はシャルドネが主体で造られていて、かつ単一品種で仕込まれるというある意味において珍しい産地です。単一品種で造るがゆえに、ジルのいう通り、その畑の土壌の違いやヴィンテージの違いが現れやすく、それをどうワインに映し出すのかが造り手の腕の見せどころといえます。単にこの畑、この村名はどうかという知識で飲むのではなく、そういった違いをグラスのなかに見つけ、造り手と対話をしながらワインを楽しむことも、ブルゴーニュワインの楽しみの一つだと、教えてくれたインタビューでした。