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ワインの魅力を知り、ワインに目覚め、学ぶ立場から、教える立場へ…そして、ボルドーに留学を果たし醸造学を勉強。帰国後は、フランス料理店を経営し、ついに、2002年、ロワールのトゥーレーヌにワイン蔵「ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ」を構え、当主となる。はたまた翌年には、ワイン輸入会社「コスモジュン」を設立。愛するワインの魅力を多くの人たちに伝えるため、ワイン醸造農家、ワイン輸入商、ワインコンサルタントと何足ものワラジを履き、日々奔走する姿は、まさにジャンヌ・ダルク。3月11日の東日本大震災をきっかけに、現在では、日本のためにできることをと、日本酒造りにも取り組み、日本の未来へとつなぎます。

新井順子のプロフィール
ワインの魅力を知り、ワインに目覚め、学ぶ立場から、教える立場へ…そして、ボルドーに留学を果たし醸造学を勉強。帰国後は、フランス料理店を経営し、ついに、2002年、ロワールのトゥーレーヌにワイン蔵「ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ」を構え、当主となる。はたまた翌年には、ワイン輸入会社「コスモジュン」を設立。愛するワインの魅力を多くの人たちに伝えるため、ワイン醸造農家、ワイン輸入商、ワインコンサルタントと何足ものワラジを履き、日々奔走する姿は、まさにジャンヌ・ダルク。3月11日の東日本大震災をきっかけに、現在では、日本のためにできることをと、日本酒造りにも取り組み、日本の未来へとつなぎます。
インタビュアープロフィール
ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。おいしいものには目がないのだが、アルコールが得意でないため、ワインには量より質を求める。好きなワインのタイプは、ナチュラルな白。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、WEBを中心にエディター、ライターとして活動中。ワインショップ『pcoeur(ピクール)』の店主でもある。
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

3.11、日本のためにできることをと日本酒造りの道へ

3.11、日本のためにできることをと日本酒造りの道へ

新井 順子…ワイン界のジャンヌ・ダルク。ナチュラルワインの日本人醸造家としてご存知の方も多いのではないでしょうか。ですが、すでに定評のあるワイン造りはもちろん、今では日本の未来のために…という思いから、日本酒造りにも取り組みます。お酒との関わり方は独創的かつマルチな印象で、これぞ順子スタイル。不屈の精神と強靭でしなやかな実行力でお酒造りに取り組む順子女史の向かう先は? そして、一番知りたい、今、仕込んでいるワインや日本酒についても伺いながら、順子女史の魅力に迫ります。

― 順子さんとワインの関わりは幅広く、活躍は多岐に渡りますよね。今、現在その関わりや在り方がこれまでとは違うように感じるのですが。

新井(以下 A):東日本大震災の3月11日、あの日をきっかけに、自分の価値観が大きく変わったのです。世界が日本に注目したできごとで、大げさではなく日本の転換点ですよね。
 
それは、ちょうど私が仙台でヴィーニ ジャポンを開催しようとしていた矢先のことでした。被災地を支援するために、自分にできることをと思い、ボランティアを始めました。ヨーロッパの生産者に日本の震災のことを伝えたところ、生産者たちから2000本以上のワインがチャリティとして届いたのです。徹底してお金をかけない倹約家のフランス人たち(笑)が、遠い異国の地のできごとに、手を差し伸べてくれた。誰かに助けられ、そして誰かを助けるという文化と意識が何よりも嬉しかったですね。で、私は、そのワインでチャリティイベントを開催して、その収益を被災地の方々に支援物資や義援金として届けるという活動をしてきました。
 
震災から5年、私は今も活動を続けています。あのとき、ワインを届けてくれた生産者たちの精神は、いまだに生きている。けれど、多くの日本人が過去のことにしてしいませんか? 喉元過ぎれば熱さ忘れる、日本という平和な国に住んでいるがゆえの、悲しさ。社会においてどうあるべきか、人に手を差しのべる文化との、意識の違いを感じないではいられませんね。

― 価値観が変わったことで、ワインへの取り組み方も変わったということですか?

A:そうです。ボランティア活動にも積極的に取り組むうち、自分の事業の在り方を考えるようになったのです。現状のままでは、これまでと同じペースでワインの輸入業(コスモジュン)に取り組むことはできないな…と。
 
そのとき、チャリティイベントでご一緒したディオニーの前田社長と会食する機会があって、経営者同士がそれぞれの抱える問題点を話し合ううちに、事業統合に向けて協議を進めませんかというお話しになったわけです。

― 2012年7月の発表には、私も驚きました。コスモジュンの輸入、販売部門をディオニーに統合するという内容でしたよね。

A:本当にごめんなさいね。ディオニー、コスモジュンそれぞれが違う意味での過渡期を迎えていましたから、何度も慎重に協議、検討を重ねて、統合発表となったのです。タイミングや方向性が合致したということですね。
 
ちょうど、私が人生の半世紀を生きたところで、価値観が変わる大きなできごとが起こった。それは、私にとって様々なことを見直すきっかけになったのです。私は、人生の流れが大きく変わるときは、潮の流れに逆らわないで身を任せるということを大切にしていて、そうすると自然に答えが見えてくる。ディオニーとのマリアージュ、統合も同じで、そうやって流れを味方につけた結果です。私自身は、とても良かったと思っていますよ。

新井 順子

― 順子さんのお酒への取り組みは、具体的にはどのように変わったのですか。

A:まず一つ目は、すでにご存知の方も多いと思いますが、日本酒造りに取り組み始めました。チャリティイベントを継続するうちに、日本のために何かできないか…と思ったことがきっかけです。私にできることは、お酒を造ることだけですから、日本酒を造ろうと(笑)この冬の仕込みで、二年目になりますね。
 
そして二つ目に、ワイン造りの新たな取り組みですね。「ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ」でのワイン造りとは別に、各産地の造り手たちとコラボという形でのワイン造りに挑戦していきたいですね。

― ではまず、日本酒の取り組みについて、教えていただけませんか。

A:日本酒の仕込みをさせていただく蔵元は、茨城県常総市の「山中酒造店」と常陸太田市の「剛烈富永酒造店」の2カ所で、今年は4種類の日本酒をリリースする予定です。「山中酒造店」では、酒米に山田錦を、「剛烈富永酒造店」では吟のさとを使って仕込みます。
 
私の造る日本酒は、新しい感覚の日本酒とお伝えすればよいでしょうか。お酒のタイプで分類すると2種類です。1つ目は、ワインで例えるならペティアンのような微発泡の日本酒版です。火入れもせず、生で絞って、そのまま詰めます。ヌーヴォーのスタイルの日本酒は、春に気軽に楽しむようなお酒ですね。精米歩合は80%で、どちらの蔵でも造ります。
 
そして、もう1つは、始めて挑戦する純米大吟醸です。「山中酒造店」で造る山田錦の精米歩合は48%。少しクラッシックなスタイルで、アルコール度数はおさえます。「剛烈富永酒造店」で造る吟のさとは精米歩合は35%。かなり精米度が高いので、仕込みも緊張しますね。
 
私の造る日本酒は、シンプルに素材の味を活かすため、最小限の手入れで造るのが特徴です。伝統的な日本酒造りは、技術が8割、原料が2割と言われ、手を掛け、暇を掛けるのがよしとされる。その工程の無駄を省いてミニマムなスタイルで造るというのが私流です。ワインで例えるなら、フィルターなし、二酸化硫黄(So2)なしのような造りですね。酒米のポテンシャルの高さを活かした造りで、熟成に堪えうることを証明したいですね。