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『ゴーミヨ誌』でも4ツ星に掲載されるアルザスのマルク・テンペ。ビオディナミ農法でブドウの魅力を最大限引き出す。葡萄と造り手の調和、ハーモニーを探し求め、おいしいワイン造りを極限まで追求する。

マルク・テンペのプロフィール
ビオディナミ農法は、幼少の頃から感覚を養う必要があると説く。その感覚とフランスINAO(フランス原産地呼称国立研究所)での豊富な経験により造り出されるワインは多方面で国際的にも高く評価されている。後進の育成にも熱心で人望も厚く、彼の人柄が伺える。
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インタビュアープロフィール
バブルの落とし子。ブランド志向の20代を過ごし、30代半ばにして本当の心の豊かさを求め、シンプルライフに目覚める。モノを見極める審美眼は周囲からの評価も高く、数多くの執筆を手掛ける。おいしいものへの追求も人並み以上なのだが、アルコールが得意でないため、ワインには量より質を求める。好きなワインのタイプは、ヴァン・ナチュレルの白。映画会社、レコード会社、出版社などを経て、WEB・モバイルプランナー、エディター、ライターとして活躍中。2012年1月にオープンした自然派ワイン専門店『pcoeur(ピクール)』のプロデューサーを担当し、現在、オーナー兼店主を務める。
 
【編集・執筆】池田 あゆ美|オフィス アイダブリュー
// Office AIW // オフィス アイダブリュー

ピノグリで醸す2種類のワインは、自然とマルク・テンペの感性が調和しテロワールを物語る、まさに優れた生産者そして優れたワインの証

自然と感性が調和し造り出す、テロワールを語る2つのピノグリ

— 『Pinot Gris Furstentum 2004 - ピノグリ フルシュテンタム -』
— 『Pinot Gris Schonenbourg 2004 - ピノグリ シュナンブール -』

K:次は、2004年の2つのピノグリです。フルシュテンタムとシュナンブールの区画という、非常におもしろい組み合わせになります。

評価するポイントはいろいろとあるなかで、各論的になりますが、2004年でこれだけのミネラル感や凝縮感があるのは、すごいと思います。2004年、私も収穫時期にアルザスを訪れたのですけれども、ものすごいカビの年でした。ですから、普通はクリーンでないというか、ミネラル感やテロワールのキャラクターが出にくい年でした。
もうひとつ、2003年は暑くて収量が減少し、その反動で2004年は収量が増加した。その影響で、薄くて暈けたワインが多かった。しかしながら、このワインは凝縮度がしっかりしている。なぜ、こんなに凝縮度があるのか。彼に聞いてみたところ、本来ならば50%くらいの収量の差が出るような年に、ビオディナミの成果によって、たった5%しか差がなかったと。つまり、収量が安定していて、凝縮度が保たれているということです。それから、ブドウ自体が健全になってきているため、強くてカビがはえずに、クリーンに仕上がっている。2004年というヴィンテージに、すばらしい結果を出していると思います。
では、ピノグリという品種でみてみますと、酸が低くこってりしていて、飴のようなねっとり感があり、重心は低く、独特の燻した香りというのが特徴になると思います。とすると、この2つのワインで見るべきポイントは、フルシュテンタムとシュナンブールがどのような違いであるべきなのか。また、それがどう表現されているのかということです。
どちらも土壌は石灰岩ですが、フルシュテンタムの区画は、砂岩が混じるドッガー亜流。シュナンブールは、ジュラ紀よりも前の三畳紀で、違う二つの石灰岩なのです。
ジュラ紀の味は、概して優しい。ジュラ紀は恐竜がいました。ジュラ紀のワインというのは、不思議なことに独特な野方図感といいますか、柔らかさや性格の良さ、アニマルフレンドリーな感じが出るのです。それと同時に暑さは感じません。
このフルシュテンタムの興味深いところは、標高がほかのグランクリュよりも高いということです。フルシュテンタムは、最低地点で295メートル、最高地点が400メートルと標高が非常に高く、アルザスのなかでもこれ以上高いクランクリュはあまりありません。そのように見てみると、その涼しさというのを感じられると思います。それから、砂岩の影響であとの抜けが優しい。淡雪が解けるようなふわっとした舌触り、解け具合を最後に感じることができると思います。

次にシュナンブールの味は、いったいどうなのか。シュナンブールで有名なのは、『ヒューゲル/リースリング・ジュビリー』や『ミッシェルダイス/シュナンブール』ですよね。皆さん、頭のなかで想像してみて下さい。それらに共通する味わいは、酸が固い。ナイフのように固く、染み込んでくるような独特の冷たい感覚の酸があると思います。
シュナンブールで面白いのは、ボリューム感を持った暖かい甘さと三畳紀を現す冷たい酸やミネラルのコントラストの大きさです。シュナンブールは、リクヴィールの集落に隣接した南南東向きの斜面です。今回のなかでは、一番収穫が遅い場所になります。閉ざされた谷で、ボージュ山脈からの冷たい風が吹き込む場所にある。その気候的条件を香りのなかにあるハーブの要素に感じることができます。飲んでみてもわかる通り、同じピノグリを使いながら、本当にテロワールの違いがよく出ています。まさにそれが、優れたワイン、優れた生産者の存在証明になっていると思います。

T:この区画の特徴については、田中さんからお話がありましたが、それに加えて重要なことがあります。このワインは、醸造時バリック(小樽)で3年ほど寝かせます。
なぜバリックで醸造するかというと、ミネラル感や酸を引き出すためです。バリックをかけると普通であれば、ワインのフレッシュさが減少してしまうように思われるかもしれませんが、澱とつねに触れさせることで、ワインが澱を食べ、それによって複雑味やミネラル感を引き出すことができます。
もうひとつ、樽を使うことの重要性としいうのは、酸化の作用があること、そしてタンニンをもたらすということです。バリックの使い方は、非常にデリケートな部分ですが、木の香りを過剰に付けないように心がけています。ですから、使用している木の種類や焼き加減というのは、非常に重要になります。実際に使用しているのは、ドメーヌ・ルフレーブのバリックです。
シュナンブールのワインには、土壌の特徴である白い花や蜂蜜のような香りを感じていただけると思います。ワインとともにスモーク鴨が出てきましたが、どちらのワインとも相性は抜群です。

K:ビオワインには、無添加のスモーク鴨……ピノグリといえば鴨というのは定番といえます。
ピノグリのスモーキーさと中華風にスモークした鴨というのは絶対合うのです。肉とピノグリ、とくにしっかりした白ワインというのは、肉自体の味わいやフレーバーをぶち壊さず、料理に寄り添う感じがします。

— 本日は、有り難うございました。人と風土の完全なる調和、その相互作用によって増幅されたワインは、私たちの五感を奮い立たせます。ワインを口に含むと、マルクテンペとテロワールが写し出すアルザスの風景がパノラマのように幾重にも広がります。今回の講演では、ワインと料理のマリアージュを成功させるための道筋のつけ方を知り、ワインの与えてくれる楽しみがさらに広がった気がします。