テロワールの個性を最大限に引き出すビオディナミスト、マルクテンペ。ドメーヌ・マルクテンペの誕生から17年。年を追うごとにワインの骨格がより鮮明になり、テロワールに直結したエネルギー感溢れるワインで多くの人の心をとらえます。マルクテンペ来日の折、ワイン評論家として多方面で活躍されている田中克幸氏をコメンテーターとしてお迎えして、ワインの試飲をしながら、アルザス・グランクリュのテロワールやセパージュを分析する特別講演(ビオディナミが引き出すアルザス・グランクリュの個性)が開催されました。伊藤由佳子氏の通訳でその様子をお届けします。今回は、前編です。
田中(以下 K):アルザスワイン……世界で一番難しい、難しすぎてよく解らないワインだといわれますけれども、本日はアルザスワインとは何なのか、アルザス・グランクリュワインにフォーカスして、その魅力をもう一度考察してみたいと思います。
どのようなワインがどのような料理に合うのか。いろんな要素があげられますが、ワインと料理のマリアージュを考えるうえで、ワインの根幹的な役割を担うのは、地質学的な土壌が持たらしているということに最近ますます気付かされています。想像していただきたいのですが、リースリングとシュナンブランという2つの品種を考えてみましょう。そして、2つの品種が植わっている土壌を代表的な地質としてあげられる、シストと石灰岩を考えてみます。
(1) リースリングとシストの組み合わせは、ドイツのラインガウですよね。*1
(2) シュナンブランとシストの組み合わせは、サヴァニエールですね。
(3) リースリングと石灰岩は、フランケンの真ん中。*2
(4) シュナンブランと石灰岩は、ソーミュール。
*1 アルザスならカステルベルグ、その味わいを思い出して下さい。
*2 シュタインの畑やアルザスの多くのグランクリュもそうです。
これら4つのワインから解るのは、品種の違いもさることながら、土壌の違いがいかに決定的かということです。サヴァニエール(2)とラインガウ(1)のリースリングに共通する、逞しい野太いミネラル感というは、シストの味わい。フランケン(3)とソーミュール(4)に共通する、柑橘系の花やグレープフレーツのようなフレッシュさ、キリッとした酸や軽やかさは石灰岩の味わいです。
頭のなかで思い出してみても、同じ品種ということよりも、ワインの性格を決定しているのは、テロワールがいかに大切かということが解ります。
それでは、どのようなワインがレストランにとって、面白く、使いやすいのか、ということを考えると、多くの土壌のタイプと味わいの幅を持つアルザスが、じつは楽しいのです。私たち自身がマリアージュの成功を意識的に導くために非常に有用なものになる、それこそがマリアージュの根幹を決定するテロワールの多様性だということを、まずは1つめとして考えなくてはいけません。
さて、ふたたび料理とコストパフォーマンスを考えてみましょう。すべてのおいしいものに共通するのは、いったい何かと考えると、4つの特徴で現すことができます。
・味わいの空間的サイズ
・味わいの余韻ともいえる時間的な延長線
・空間と時間の間での密度
・空間と時間の間での複雑性
つまり、4項目において、おいしい料理と共通する性質をワインが備えているということが大切です。
ブルゴーニュやボルドーを売ることも大事かもしれないです……が、そうではない。同じだけのスケール感、長さ、密度や複雑性のあるものを出してこそ、マリアージュが成立する。そんななかで、アルザス・グランクリュは、フランスのすべてのグランクリュワインのなかで、じつは圧倒的にお買い得というのが事実としてある。これが2つめです。
3つめは、現代のお料理の流れを考えたときに、しっかりした白が必要だと思うのです。じつは、安くて軽い白はいくらでもある。しかし、しっかりした白は、選択肢が非常に少ないのです。日本の食材で、血の香りがしない白身や赤身の肉と軽いソースを組み合わせたときに、果たしてしっかりした赤ワインで合うのか? という問いは立てなくてはいけない。「しっかりした白=ミネラル感のしっかりした白」のマリアージュの可能性というのは、私たちがすでにリスト上で表現している以上のポテンシャルを持っています。さらに、メインディッシュのしっかりした魚料理とアルザスワインというのは、ほかに比類なきものだと思います。