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シードル醸造所の入り口付近の風景。この佇まいからも歴史の深さやシードルに対する情熱が伝わってくるように感じるのは、私だけであろうか。

シードル醸造所の入り口付近の風景。この佇まいからも歴史の深さやシードルに対する情熱が伝わってくるように感じるのは、私だけであろうか。
特集ワイン
すべてにおいてナチュラル……そんなスタイルを貫くシードルリー(シードル醸造所)。リンゴの無農薬栽培はもちろんのこと、シードルの醸造でも酸化防止剤を一切添加しない。すべての過程をナチュラルに自家製でこなす。それが彼の信念であり、シェフだった頃からの夢だったという。
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リンゴの無農薬・ビオ栽培はもちろんのこと、醸造でも酸化防止剤を一切添加せずにリンゴのおいしさを最大限活かしたシードルが登場。こだわりは一貫してナチュラルであること

こだわりは一貫してナチュラルであること
ミシェル・ブゴー

フランス西北端ブルターニュ地方の玄関口、レンヌから北西に40kmほどのところにあるコルンヌ村。その小さな村は、海の国を意味するコート・ダルモール県の内陸部にあり、緑のボカージュ(小さな森)に囲まれた沃野(よくや)が広がる、のどかな農村です。この地で「ル・セリエ・ド・ボール」の当主ミシェル・ブゴーと妻パトリシアが無農薬でリンゴ栽培を始めたのは、1984年。親から受け継いだ既存のリンゴ園に加え、畑を買い足しリンゴ樹を増やしました。彼らは、生態系に対してできるだけ介入をせず、自然にリンゴを栽培します。無農薬での栽培は、化学肥料や農薬を使う栽培よりも収量は約半分になるといいます。その頃、リンゴはすべて協同組合に売る生活でした。今でこそもてはやされる無農薬のリンゴ、当時は奇異の目で見られ変人扱いされることも多かったと彼らは振り返ります。2001年から念願のシードル醸造を開始し、現在では無農薬リンゴの1/3を自家醸造に用い、残りを販売しています。

ブルターニュ地方のシードル・フェルミエ「ル・セリエ・ド・ボール」が紡ぐ自家栽培による無農薬リンゴの農家製シードルは、おいしいと現地でも定番の逸品

自家栽培による無農薬リンゴの農家製シードル
黄金色に輝くシードルは、これまでの常識を覆すおいしさ

ケルト文化の影響が色濃く残り、独自の光彩を放つブルターニュ地方。伝統的な食文化の代表選手といえる果実酒がシードルです。その起源は、6世紀頃に遡るといいます。リンゴの栽培が盛んに行われていたこの地域では、ワインよりも手軽な価格で親しまれ、食卓の定番として重宝されていたのがシードルです。この地には、シードルリーと呼ばれるシードルの蔵元が数多く点在しますが、その形態は3種類に分類することができます。1つめは、自家栽培のリンゴで、自らシードルを醸造する「Cidre Fermier(シードル・フェルミエ)」、2つめはリンゴを農家から購入し、自家醸造のみおこなう「Artisant(アルティザン)」、そして工場などで大量生産する「Industriel(アンドゥストリエル)」です。「ル・セリエ・ド・ボール」は、シードル・フェルミエとして自家栽培、自家醸造をしています。シャンパーニュ風にいうなら「RM(レコルタン・マニピュラン)」にあたるシードル・フェルミエ、そのなかでもビオロジック栽培をおこなう生産者はとても珍しく、現地でもかなり貴重な存在といえます。

完熟すると果実は自然に落下する、収穫の合図はリンゴが教えてくれるもの

リンゴが教える収穫の合図
リンゴ畑の一部。草の生え方からも無農薬であることが分かる

リンゴの収穫時期は、10~11月。収穫の合図は、リンゴが知らせてくれます。樹でじっくりと成熟したリンゴの実が、自然に落下するのです。それが果実からの収穫のサインです。ビオロジックの畑は、ふさふさした草に覆われているため、下草がいわばリンゴのクッションです。シードル用のリンゴは、日本の食用よりも一回り小さなリンゴです。落ちた完熟リンゴは、ひとつ一つ手で拾い選果しながら収穫します。リンゴ園も今では、50ha程度まで広がり、樹齢4~23年の樹を約25,000本育てています。果樹園には、シードル醸造向けの品種ドゥース、アメール、ドゥース・アメール、アシデュレはもちろん、全15品種のリンゴの樹が植わっています。リンゴ園は、鳥や虫のさえずりが響きわたり、まるで小さな森のようです。

フレッシュなリンゴがじっくり発酵の時を経て果実発泡酒シードルに生まれ変わるまで

リンゴがシードルに生まれ変わるまで
リンゴの実(7月)

醸造所に運ばれたリンゴは、まず水洗いし汚れを落とします。リンゴ破砕機でゆっくり時間をかけて軽くくだき、苦みの原因となる芯や種の部分を取り除きます(除芯)。リンゴは品種別に圧搾機で優しくプレスし、果肉が含まれた状態の果汁を発酵タンクに入れ、約4ヶ月ゆっくり時間をかけて発酵させます。砂糖などは一切加えませんが、天然リンゴ果汁の糖分がアルコール発酵を引き起こし、発酵が始まると茶色に変色したリンゴの果肉(果帽)がタンクの上に浮いてきます。これは、デリケートな果汁が空気と接触し、酸化することから守る役割も果たします。リンゴ果汁はポリフェノールなどを豊富に含むため、澱(おり)が発生しますが、発酵途中に澱引きをして、果汁のみほかのタンクに移し変えます。酸化防止剤の添加は一切行わず、醸造もナチュラルに、フレッシュでおいしいシードルを造ります。
 
■Demi sec
発酵途中、糖と炭酸の残った状態でフィルターにかけ酵母を取り除き、発酵を止めてクパージュ(ブレンド)し、瓶詰めします。黄金色がかった濃い麦藁色、味わいはパインやシナモン、ハニートーストのニュアンスも感じる心地よい甘みと泡立ちが特徴です。
 
■Brut
さらに時間をかけて自然発酵を見守り、瓶詰めの2~3日前にクパージュし、バランスのとれた辛口に仕上げます。黄金色がかった濃い麦藁色、味わいはキレのある完熟リンゴの旨みと程よいタンニンのなかにほのかな塩気が絶妙のバランスです。