I:では、これから質疑応答とさせていただきます。
— 2007年は、ブドウの栽培において、どのような年になりましたか?
A:白は非常に良い状態で栽培できました。ガメイ種は、難しい年になりました。と言いますのも、一部のブドウに痛みが見られて、選別作業に非常に手間が掛かりました。腐敗しているブドウは徹底的に取り除く。これは、どういうことかと言うと、ここで手を抜くと雑菌が増殖する原因になってしまうのです。選果には、非常に手が掛かりましたが、結果として軽めでスイスイ飲めるボージョレらしいワインができました。
— 『ロゼ ローガズーズ』の栓を開けたあとは、どれくらいの期間楽しめますでしょうか。あわせて保管方法も教えて下さい。
A:このワインの微発泡は、アルコール発酵で生じた発泡を閉じ込めただけのものであって、あとでガスを添加したものではありません。ですから、ワインを注いだら、直ぐに栓を締めて下さい。そして、冷蔵庫で保管して下さい。発泡が弱くなっても、ちゃんとした普通のワインとして楽しんでいただけます。
— 自然酵母についてのお話もありましたが、アロンソさんの酵母に対する考え、哲学をお聞かせ下さい。
A:ヴァン・ナチュレルを造る場合、テロワールの風味を出してくれるのは、自然酵母の力によるものです。
自然酵母は、偶然そこに居る訳ではなく、健全な土壌やそこに住まう微生物、湿気などによるものであって、毎年変わってくる生きた土着の菌なのです。その土着菌(自然酵母)が、テロワールのアロマをワインのなかに造り出してくれる、キューピットのような役割を担っているのが自然酵母です。
例えば、ボルドー・ポムロール地区のメルロー種のワインには、典型的なスタイルが決まっていて、その香りを出してくれる酵母菌を研究所で作っている。その人口酵母を使えば、ブドウを栽培している土壌に関係なく、典型的な香りを造り出すことができるのです。そうやって人工的に造られたワインを、ポムロールのワインと言ってしまっている。例えポムロールでも、自然酵母を使えば、全く違うテロワールの香りがでるはずだと、私は考えます。私たちヴァン・ナチュレルの造り手にとっては、自然酵母は本当に大切なものです。
— 自然酵母と酸化防止剤(SO2)の関係について、もう少し具体的に教えて下さい。
A:ブドウには大切な自然酵母が付いています。自然酵母というのは、土壌のなかで育ち、暖かくなると空気中に浮かび出して、ブドウの皮に付着するんです。ブドウを収穫して、発酵室に入れると自然酵母が働き出し、発酵が進みます。
自然酵母は、約30種類も生息すると言われていますが、アルコール発酵する前に、酸化防止剤を入れることによって、一部の酵母が死んでしまうんです。あるいは、酸化防止剤を多く入れれば、全滅してしまうこともあります。多くの造り手は、酸化防止剤を入れるのですが、酸化防止剤を多量に入れて、自然酵母を殺し、自分の付けたい香りの人口酵母を入れてワイン造りをしている造り手がいるというのも事実です。
健全な土壌で健全なブドウを栽培し、自然酵母で発酵させていても、アルコール発酵の前に酸化防止剤を入れる造り手がいますが、それは避けた方が良いというのが私の考えです。80から90%の造り手がアルコール発酵前に、酸化防止剤を入れてしまっているという現状を残念に思います。
— アロンソさんのワインに合うチーズをお教え下さい。
A:まず最初に、私の造る白ワインは、非常にミネラル感があるものが多いです。ですから、酸の残ったタイプのチーズ、例えばブルーチーズやシェーブルチーズと相性が良いです。ガメイ種・赤ワインについては、ピュアな果実味がありますので、白カビタイプのチーズ、サンマルセランが合うのではないでしょうか。
本日は、有り難うございました。すでにワインの世界でもオーガニック栽培など自然な栽培で造られたワインは、定着してきましたが、さらに醸造の過程でも厳しい規定で造られるという「ヴァン・ナチュレル」シリル・アロンソは、それをごく当たり前のことだと考えています。「ヴァン・ナチュレル」は、よりテロワールを味わうためのワインであり、造り手の哲学が込められた自然ワインと言えるのではないでしょうか。