日本では、忙しく過ごす現代人達に「癒しや安らぎ」そして「スローライフ」という思想が広まりつつあります。そのような動きのなかで自然派ワインも注目を浴びています。マルク・テンペさんのワインを飲ませていただきましたが、第一印象は本当においしい、素材と自然そのままの旨味が封じ込められたワインのおいしさを実感しました。
— テンペさんのワインを飲んで、単純においしいと感じたんです。やはり、おいしいものには、理由があるとお考えですか?
テンペ(以下 T):その通り、素晴らしいプロローグですね。言うのは非常に簡単なんですけれども、すべての人がそれをちゃんと考えているとは限らないですよね。
— では、テンペさんがワインを造る上で、大切にしていることは何でしょうか?
T:葡萄の木々、幹がどういう環境に育っているかということを理解し、把握することです。南フランスのドメーヌ・デ・クルビサックもしくはアルザスのドメーヌ・マルクテンペのどちらにも言えることですが、ワインを造る時にどういった所に葡萄が育っているのか、その環境・テロワールの個性を最大限に引き出したものを造り出すということを考えています。テロワールという言葉には、葡萄が育っている環境、気候、風土なども含まれます。私が手掛ける方法や考え方を、よく画家が作品を手掛ける時に取り組むスタイルに例えたりします。世界中で葡萄を栽培する多くの生産者は、おもにどの葡萄品種で作るのか、つまり葡萄品種の個性を表現するものがワインのスタイルという考えで造っている生産者が多い気がします。私にとってセパージュ(葡萄品種)というものは、画家にとってのキャンバスのようなものです。画家がキャンバスに色を塗って仕上げていく、色使い・色というものが私が葡萄を造る時のテロワール(地質、気候、風土など)なんです。画家がいかに美しいものを作りあげるかという技術は、ワイン生産者である私がどのようにおいしいものを作り上げるかということに似ているのです。このように例えると、私がワインを造る時の取り組み方を簡単に要約できるのではないかと思います。
— そのほかに技術的な面でのコダワリも教えてください。
T:まず始めに1年を通じて、いかに良い葡萄を作れるかという土壌造りの取り組みをします。醸造に関しては、収穫してきた葡萄を尊重するということが一番大切です。ですので機械の力を借りて作業を行うことを禁じています。それは、機械には葡萄を痛めたり、傷付ける要素があるからです。
— ということは、醸造などのテクニックよりは、葡萄本来の良さを引き出すことに重点を置いているということですか?
T:おいしいワインを造るには、素晴らしい葡萄が必要です。それは葡萄の実のなかにあるものでワインを造るからです。だから、まず第一に、なるべく品質の良いぶどうを造る必要があります。それから醸造・熟成で私が用いる技術・方法というのは、あくまでも葡萄の実に入っている要素をどれだけそのままストレートに引き出すかという行程にすぎません。
— 日本でワイン造りに影響を受けたものはありますか?
T:日本の良いところは、皆さんが私のワインを好きだと言ってくれることです(笑)。個人的に日本は大好きです。いろんな意味では影響を受けているのですが、実際にワイン造りには影響してません。なぜなら、生産者としては、自分の感じるままに造る必要があるのであって、輸出することを考えて造るべきじゃないと思っているので。
— ワイン造り以外に、休みの日にしていることや趣味、楽しみはありますか?
T:実は、ものすごく仕事をしてます。それは、日本の影響を受けているのかもしれませんね(笑)日本人は働きますから。あとは、そうですね…、休みの日は、友人と交流を深めています。森で友人と話しをしたり、一緒に美味しいご飯を食べたり、ワインを飲んだりする時間が好きです。友人もワイン造りをしている人が多いのですが、10〜15人で大きなテーブルを囲み、ワインを持ち寄って、みんなで飲んだりします。